エネオス展開のJX、家庭向け電力での勝算 セット販売駆使で、首都圏シェア4%狙う

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ただ、「値段だけの勝負では消耗戦になる恐れが強い」(JX幹部)。そのため、独自商品であるガソリンとのセット割引販売による差別化など、いかに付加価値をつけていくかが重要だ。ほかの元売り各社より電力販売で先行し、ブランドイメージを上げ、ガソリンなど燃料販売の増販にもつなげたい。電気の契約者に対するガソリンの値引きについては、店頭価格の競争激化を避けるため、カードの決済時にキャッシュバックする形をとる。

東京ガスと組んだ川崎天然ガス発電所

自前の発電事業も拡大する。2008年に東京ガスと合弁(80万kw、JXが51%引き取り)で川崎天然ガス発電所を立ち上げるなど、規模を拡大してきたが、今後も発電所の新設・増強を進める。川崎天然ガス発電所は約110万kw増設し、2021年に運転を開始する予定。2030年までに、全国での発電能力を今の3倍に近い400万kw以上へ拡大する方針だ。

今後大きな課題となるのが、安価で安定したベース電源をどう確保するか。他社との提携で、石炭火力を新設したり、電源を調達したりするかどうかが焦点となる。現状、ベース電源としては石油コークスやピッチ(残渣油)を利用しているが、自前のガス火力と、他社の石炭火力を交換取引することも選択肢に入れる。原子力発電による電源調達は今後も想定していない。

ライバルも参入で混戦きわまる

石油元売り各社は、主力の石油事業の需要が右肩下がりの中、再生可能エネルギーや電力事業を強化しようとしている。昭和シェル石油は東京ガスとの合弁でガス火力発電所(扇島パワー1、2号機)を運営しており、来春には3号機が稼働開始する。今年12月には単独開発のバイオマス発電所も稼働予定。こうした自主電源を用い、参入済みの法人向けに加え、来春には家庭向けの小売りも参入する方針だ。系列のLPガス販売店やガソリンスタンドなどを通じた販売を検討している。

東燃ゼネラル石油や出光興産も、家庭向け参入を決めている。出光は東ガス、九州電力と組み、千葉県袖ケ浦で出力200万kwという大規模な石炭火力発電所を建設(2020年代半ば運転開始)する計画だ。経営統合で合意した出光・昭和シェル連合は、電力販売においてもJXの有力なライバルとなる。

全面自由化後は、同業他社に限らず、数百社とも見込まれる新電力や大手電力会社の間で乱戦が必至の情勢。ただ、ゆくゆくは競争力のある電源を持つ新電力と大手電力に集約されるとも予想される。

家庭向けの場合、光熱費の中心を占めるガスと電気のセット販売がシェア拡大に大きな威力を発揮すると見られ、東京ガス、大阪ガスなど大手都市ガス会社が優位なポジションにある。ガソリンや灯油、LPガスなど家庭に密着した商材を持ち、発電所も立地しうる広大な土地を擁するJXも、新電力として最有力候補の一つだが、想定通りに飛躍できるかは、他社との提携の成否がカギを握ることになりそうだ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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