ムーディーズの日本に対する見方(年次報告)《ムーディーズの業界分析》

拡大
縮小


一方、長期的な成長回復の見通しは暗い
実質GDP成長率の内閣府ベースケースシナリオは、14年から20年にかけて0.9~1.2%のレンジ。輸出産業の高い生産性が、規模の大きい輸出以外の国内財・サービスセクターの低い生産性で相殺されている。また、緩やかな人口減少と急速な高齢化が、経済成長の潜在性をさらに不透明にする。日本の生産年齢人口は1995年、全人口は05年にピークに達した。成長の新たな担い手としての可能性が就業率が低い状態にとどまっている女性労働者の活用である。

日本の輸出市場拡大、国際条約に基づく国内市場自由化といった改革が、新たなプラス要因となる可能性もある。野田首相は最近、日本が環太平洋経済連携協定(TPP)に向けた交渉を開始すると述べた。日本は主に、農業セクターに対する保護が強いことから、自由貿易協定(FTA)への参加に消極的であったが、こうした姿勢を維持するコストが徐々に明らかになってきた。

デフレ収束まで金融緩和策が続く可能性
・日銀は、物価安定の兆しが見えるまで、政策金利を0~0.1%近辺に維持するとの意思を示している。日銀の11年10月の経済・物価情勢の展望によれば、13年度半ばあたりまでは、そうした展開は期待できない。コアCPIは12年度末(13年3月期末)には0.1%と予想されている。リーマンショック以降、日銀は合計55兆円(GDPの約12%)の資産買い入れを数次にわたって行うことにより、金融緩和を進めた。その計画は主に企業セクターを対象としていたが、日本国債9兆円も含まれていた。

(2)制度の頑健性--非常に強い

ムーディーズが世界的にベンチマークとして使用する、世界銀行のガバナンス指標によれば、日本は法の支配が非常に強く、相対的に効率的な政府を持つとみられている。しかし、日本の規制の質に関するムーディーズのスコアは、AaaからAaの格付けが付与されているOECD先進諸国ほどには高くない。マクロ経済および金融市場統計の透明性は非常に高いが、政府財政の公表は複雑で、IMFの標準概念と容易に比較ができない。

・日銀(福井俊彦前総裁および白川方明現総裁)は、デフレ圧力の封じ込めと金融市場の安定化を目的として、迅速かつ大規模な介入を行った。IMFは、最近の金融緩和は、景気浮揚に効果的であったと結論づけている。また、企業セクターにおける負債削減および銀行セクターのファンダメンタルズ向上により、近年、金融政策の伝達メカニズムが改善したとしている。

・しかし、日銀には、景気を刺激し震災後の復興を促進するための、より積極的な政策をとるよう政治的圧力がかかっている。日銀は、例外的な金融緩和策に長期にわたって依存すれば、金融市場の機能および銀行の収益性にマイナスとなる意図しない影響を及ぼすと考えている。そのため、日銀に対する長期的な信頼性は、システムにおけるデフレ圧力を抑制し、物価の安定性を確保するうえで、政治的圧力からの独立性を維持することにかかっている。

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT