ムーディーズの日本に対する見方(年次報告)《ムーディーズの業界分析》

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震災への財政対応は進捗している
国会は11月、最大規模(復興目的の12.1兆円)の第三次補正予算を通過させた。第二次補正予算に加え、財政支出は14兆円(GDP比3.0%)となる(4兆円の第一次補正予算は歳出の見直し等によって賄われた)。内閣府は、10年間の最終的な財政コストは23兆円(11年のGDP比4.9%、最初の5年間で少なくとも19兆円)に上ると予測している。

IMFは、一般政府財政赤字は11年にGDP比10.3%に上り、12年にはGDP比9.1%と若干減少すると予想。11年度の震災関連の最初の2度の補正予算と異なり、第三次補正予算では、政府は大半を国債の発行に依存する(特別復興債11.6兆円)。同国債の償還財源は既存の歳入によらず、新たな税および政府資産(日本たばこ産業等)の一部売却等による。

現在の政策および成長トレンドは債務増加を考慮していない
3月11日の震災前の経済・財政見通しはすでに、政府の政策上の課題を示していた。震災の影響は短期的な見通しに影を落とし、長期的な見通しをさらに暗いものとするとみられる。財政調整策は、02年の小泉政権以来、大半がインフラ支出の削減を盛り込んできた。歳入面では、消費税の引き上げが結論に近づいている。しかし、今後の提案が予算に中立的なものであるか、予算削減につながるものかは不明である。

政府は、消費税率を現行の5%から10年代半ばまでに10%まで引き上げる意向である。消費税引き上げを急ぐ理由の1つが、基礎年金の国庫負担分の補てんである。基礎年金の国庫負担割合は09年度に3分の1から2分の1に引き上げられた。

内閣府の「慎重シナリオ」の下では、20年まで、実質成長率、名目成長率とも1~2%を超えるとは予想されていない。これは、6月の税と社会保障の一体改革に盛り込まれた施策が実行されれば、プライマリーバランスの赤字が15年までに半分のGDP比3.0%となるが、それでもプライマリーバランスの均衡は達成されない。また、10年代後半の目標の達成のためには追加的な改革が必要。

債務動向は、内閣府の修正長期見通しによれば、「成長戦略シナリオ」が実現した場合にのみ安定化する。税と社会保障の一体改革に加え、これには、14~20年において、全要素生産性上昇率約1%、世界の経済成長約4%、デフレの収束、インフレ下での名目成長率約4%が必要となる。現在の国内環境下で、向こう10年間の米国およびユーロ圏の見通しが不確実かつ厳しい中で、こうした条件は楽観的すぎると考えられる。


偶発債務は差し迫ったリスクとならない
 即座に発生する偶発債務は、日本最大の公益民間企業(震災時の津波により福島第一原子力発電所の原子炉が破壊された東京電力)である社債発行体を支援するコストによるもの。国会では8月3日、東京電力の賠償を支援する「原子力損害賠償支援機構」を発足させた。そのコストは4.7兆円(GDPの約2%)を超える可能性がある。ただし、国債発行、業界、債権者の間の負担割合についてはまだ完全に検討されていない。加えて、原子炉の廃炉解体費用が1兆円程度に上るとみられる。

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