ムーディーズの日本に対する見方(年次報告)《ムーディーズの業界分析》

拡大
縮小


 その他の偶発債務は、政府予算・債務に直接反映されていない。財政投融資計画の潜在的損失はそれほど大きくなく、おそらく、世界的な金融経済危機により銀行セクターが抱えているであろう規模を下回るだろう。金融セクターに対する政府の支援額も、ユーロ圏の主要先進国および周辺国に対する支援に比べれば、はるかに小規模なものにとどまるとみられる。

(4)イベントリスク--低い

最も大きなイベントリスクは、日本国債の調達危機かもしれない。そうした展開は短期的には非常に考えにくいが、長期的には圧力が高まる可能性がある。

日本政府にとって、低コストでの資金調達が難しくなる転換点は2つあると見ている。その1つは、家計貯蓄、もう1つは経常黒字だ。日本は極めて多額の対外純資産(11年第1四半期末時点でGDP比54%)からの所得収支の黒字で経常収支の黒字が維持されるとみられるため、家計貯蓄のほうがより懸念される。

いずれも向こう数年で実現するとは考えにくいが、長期的にリスクが高まる可能性はある。人口動態要因および所得の伸びの停滞により、過去10年間で家計貯蓄率が著しく低下し、08年にはわずか2.2%となり、09年には5.0%へと回復した。現行の貯蓄が持続的に確保できなければ、政府の多額のリファイナンスニーズに対する調達圧力は高まる。この状況によって、継続的な多額の財政赤字により公的債務が家計金融資産総額を超えるようになれば、市場は日本国債にリスクプレミアムを求める転換点に達することになろう。

・ムーディーズは金融セクターのイベントリスクは非常に低いと考えている。大手銀行のリストラクチャリングおよび合併により、不良債権が大幅に減少し、自己資本比率は向上した。日本の銀行は、米国および欧州の多くの銀行のような破壊的影響を及ぼしうるオフバランスの問題を抱えていない。日本の銀行の加重平均銀行財務格付けは、AからEのスケールでC-と、世界全体の中央値のD+を若干上回る。

日本は、国際収支および対外信用市場のリスクは極めて低い。対外純資産は3兆ドル以上(10年末のGDP比56%)で、主要先進国の中で最も大きく、ドイツの絶対額および相対規模と比べても大きい。銀行、企業、政府の所得が経常黒字を支えており、輸出が減少または輸入が高止まりして小幅な貿易赤字が生じても相殺可能である。外貨準備高は08年末時点で1兆ドルを超え、その後もその水準で推移している。


関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT