財務省にとって「待望久しい首相」は吉か凶か

財務省にとって「待望久しい首相」は吉か凶か

塩田潮

 戦後の33人の首相のうち、就任前の蔵相・財務相経験者は、石橋、池田、佐藤、田中、福田赳夫、大平、竹下、宮沢、羽田、橋本、菅、野田の12氏である。

 蔵相・財務相の在任期間は、4年9ヵ月の福田氏、4年5ヵ月の竹下氏、4年3ヵ月の池田氏、2年11ヵ月の田中氏、2年5ヵ月の大平氏と宮沢氏(首相退陣後の在任も含めると計5年2ヵ月)、2年2ヵ月の橋本氏、2年1ヵ月の佐藤氏、1年3ヵ月の野田首相という順だ。

 元大蔵官僚の池田、福田、大平、宮沢の4氏はいうまでもないが、どの首相も蔵相・財務相在任中に財政、金融の実態を学び、政策にも明るくなった。首相として大蔵省・財務省の意向に沿う舵取りに終始したわけではないが、総じて理解があった。大平首相は一般消費税を唱え、竹下首相は消費税導入を実現、橋本首相は消費税率引き上げを実施した。

 首相にとって「最強の官庁」の財務省との連携は政権運営の大きな武器となる。

 一方、財務省にすれば、目指す政策や路線の実現には「首相との蜜月」が必要だ。石橋氏から橋本氏までの18人の首相のうち、10人が蔵相経験者だったが、以後、7代も蔵相・財務相未経験の首相が続いた。

 ところが、菅氏、野田氏と2代続けて財務相経験者の首相が出た。それも蔵相・財務相から首相への横滑りは12人中、この2人だけだ。財務省にとっては首相就任直前の2年、副大臣、財務相を務めた野田氏は「待望久しい首相」に違いない。

 増税を唱える野田首相が財務省の「理解者」であるのは疑いない。首相として「最強の官庁」との二人三脚は必要だとしても、首相が財務省の操り人形になる危険性も大きい。国民は二人三脚を容認しながらも、実態は首相主導か財務省主導か、その点を凝視し、支持・不支持を決める基準にする気でいる。

 八方塞がりの下で、野田首相は「党内融和・対野党低姿勢・財務省との二人三脚」で船出したが、この先、国民の批判、党内の反対論、野党の抵抗などで、二人三脚のつもりが、余興演芸の「二人羽織」のようにちくはぐさが目立つ展開となるかもしれない。

 そこでどう指導力を発揮するかが最初の試練である。
(写真:梅谷秀司)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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