エーザイ、認知症の"根治"は実現するのか 内藤晴夫CEOがこだわる「ゼロからの発明」

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内藤晴夫CEOには最近、次世代薬の開発で「確信を強めた」という解析結果があった。
医薬業界で初めて認知症薬を発売したエーザイ。次の一手に注目が集まっている。世界に約4400万人いる認知症患者のうち、6割前後を占めるのがアルツハイマー型だ。従来の薬は認知機能の低下を遅らせるものだが、同社は根本治療につながる次世代薬の開発を進めている。その展望を内藤晴夫CEO(最高経営責任者)に聞いた。

 

──開発中のアルツハイマー型認知症薬は、どんな点が新しいのか。

発症後ではなく、症状が現れるよりもはるか前に根本的な原因にアプローチする、先制医療であるということだ。認知症の原因に関する仮説の一つは、脳内に徐々に沈着した「アミロイドβ(Aβ)」というタンパク質が、神経細胞死を引き起こし、認知機能が低下するというもの。この仮説に基づけば、Aβの産生を抑え、除去することで、認知症を予防し、治せる可能性がある。

──現在の開発段階は?

当社はAβ薬の候補物質を、共同で開発・販売する権利を持つ米バイオジェンの薬剤と合わせて三つ持っている。また、別のタンパク質関連のバイオジェンの薬剤も含めると、候補は四つ。世界最強のパイプライン(新薬候補群)だと自負している。

仮説の正しさを示唆する結果

その中で、バイオジェンの薬剤を軽度認知障害の患者に投与したところ、脳内のAβが減少し、認知機能が改善したというデータが出た(3月20日にバイオジェンが中間解析結果を発表)。これは仮説の正しさを示唆する、世界で初めての結果であり、ビッグイベントだ。残りの2剤も効くはずだという確信を強めている。

うまくいけば、これらの薬剤は2020年前後に世に出せる可能性がある。認知症の対応には介護を含め、非常に大きな社会的コストがかかっており、今後は中・低所得国で患者が急増する。次世代認知症薬の市場規模は、保守的に見て、30年に3.2兆円になると予測している。

──自社開発だけでなく、米バイオジェンと提携したのは?

認知症薬は開発にすごくおカネがかかる。試験デザインによっては頻回の画像検査が必要なことに加え、1000人規模の患者を使った3年間ほどかかる臨床試験を複数重ねないと承認まで行かない可能性がある。

これを何とかするには、提携しかないと考えた。複数のパートナーとずいぶん折衝したが、バイオジェンは世界初の認知症薬「アリセプト」の経験があるエーザイのことを評価してくれた。費用は折半するので、当社の負担はピーク時でも年間300億円ほど。四つ同時に開発しても、われわれのサイズの会社でも十分手掛けることができる。

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