エーザイ、認知症の"根治"は実現するのか 内藤晴夫CEOがこだわる「ゼロからの発明」

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意思決定については、データに基づいた創薬の進歩で劇的に改善している。これまでの新薬開発では「もう少しやってみてから判断しよう」ということが多かったが、最近はiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使ったり、疾患関連遺伝子情報に基づいて薬を作ったりしているので、「やってみなければわからない」という世界から、「やらなくてもわかる」という世界になってきている。

サイエンティフィック・アクメンについては、サイエンスそのものをやっているアカデミア(大学や研究機関)との連携が重要。得意技として、当社は低分子医薬品の創薬では世界有数と評価されているので、その持ち味を生かす。

──最近は、創薬シーズを求めてバイオベンチャーを買収するケースが世界的に増えている。

他人様の発明・発見を買うのも一つの手段だが、このビジネス最大の醍醐味は、自分たちがゼロから努力して発明・発見をなすことだ。これは非常にリスクが高い。

「よくも命が持ったなと思う」

「ハラハラする目に、年に2回も3回も遭わされるのがこの商売だ」と話す内藤CEO

たとえば、ダブルブラインド試験(臨床試験にかかわるすべての人が、どんな薬を投与するのかを知らずに行われる比較試験)は、試験者も被験者も結果が出てくるまでわからない。

それで「社長、良好な結果を得ました」「社長、また失敗しました」という結果を聞くことになる。「また失敗」というのは、それまで費やした何百億円がパーになるということ。そんなハラハラする目に、年に2回も3回も遭わされるのがこの商売だ。私もよくこの年まで命が持ったなと思う。金曜日の夜の米国では結果を聞きたくないとか、どちらの方向を向いて結果を聞くとか、験を担ぎながらやっている。

──これまで印象に残っている結果の知らせは?

(認知症薬である)アリセプトのダブルブラインドの結果を聞いた時はいちばんうれしかった。「おお、やったか!」という感じだった。二つのエンドポイント(治療行為の有効性を示すための評価項目)を圧倒的な統計学的有意差でクリアしたので、びっくりした。

──認知症の次世代薬でも、その喜びを味わえるでしょうか。

それまで何とか生きていたいと思う。いつも社員には、「薬を墓前に供えてもらっても仕方ない。生前に見せてくれ」と言っている。

(撮影:梅谷秀司)

「週刊東洋経済」2015年6月6日号<1日発売>「この人に聞く」に加筆)

長谷川 愛 東洋経済 記者
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