長い間、医学部受験生を指導していて感じるのは、生徒によって能力は実にさまざまだということである。
今回はその中でも「現実認識」「現実感覚」という類の能力について考えてみたい。いわゆる現実に今、生きている、生活している中での感覚のことだが、これが意外と、難問読解の際に役に立つ。
具体的に、次のような入試問題を素材に考察を加えてみよう。
入学後に学ぶ内容にどうアプローチする?
本問は胸部の横断面に関する出題で、なかなかユニークな問題である。ただあらかじめ断っておきたいのは、ここで問われている分野は本来、大学の医学部に進んでから学ぶ内容であるということだ。
実際、本問が出題された年に医学部に進学した生徒から、入学後数年して、「今まさに胸部の横断面がどのように構成されているかを学んでいます」と報告を受けたことがある。おそらく当時、入試問題の作成過程に解剖学の教授が関与していたのだろう。
さて、本問に対し「できる生徒」「できない生徒」はどのような反応を示すのか。これも実際の講義でのやりとりを紹介しよう。この連載の第6回にご登場いただいた4浪のAさんと現役のBさんに、過去に同じ質問をしたことがある。その際の二人の反応は、おおよそ次のようなものだった。
Aさん:「えー、これは難しいです。人間の体を正面から描写した解剖図は見たことがありますが、横に輪切りにした解剖図なんて今まで目にしたことがありません。教科書にも参考書にもこの図は載っていないですよね。うーん、Bは大きいから、もしかすると肝臓かな。
それとCは胃かなあ、でも胃はどこにあるんだっけ(と、言いながらお腹を触る)。ああ、ここか、この問題は、腹部ではなく胸の高さで切断しているからそんなわけないなあ。
じゃあBは肺かな。でも、左右の大きさが違うぞ。これでは矛盾している。ああ、ダメだ。頭の中が混乱してきました。正直、難しいです。うまく想像できません」
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