「絶歌」は遺族感情を踏みにじる危険な書籍だ 借り物文章のようで贖罪意識は極めて希薄

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まず地方にある私が行きつけの書店では、売り方からいつもと違いました。

店に陳列していなかったので、書店員に尋ねますと、彼女がまず店長らしき人に「この人がその本を買いに来た」とコソコソ告げます。そこでOKが出たため、カウンターの中から出してきたのです。未成年が来れば「品切れだ」と言うことになっているのでしょうか。

私は本を買うときに、「カバーをかけますか」と聞かれなかったことはありませんが、このときは聞かれず、黙ってカバーをしてくれたのでした。

本屋さんが、「世間の批判を恐れつつこっそりと売っている」といった異様な雰囲気に包まれており、何かいかがわしい本を買ったような形で、元少年Aの手記『絶歌』を入手しました。

借り物の文章のようで贖罪意識は極めて希薄

元少年Aはまったく更正できていないと思います。彼は少年院時代から本を数多く読み、特に三島由紀夫や村上春樹を愛読しました。ドストエフスキーの「罪と罰」も読んでいて、文豪たちが使った文章を抜粋して引用する能力も相当なものです。

「夕陽を見られる時間は短く、あっという間に柔らかな夜の闇が、ペーパークラフトのような友が丘の街並みを優しく包み込んだ。眠りにつく子供に、母親がそっとかける毛布のように……」

このように随所にみられる文学的すぎる表現は、手記が全部正直に書かれたものなのか、小説家たちからの借り物の文章なのか、疑問がつきまとうものでした。

その彼が「なぜ人を殺してはいけないのか?」と問われ、大人になった今の自分が答えるとしたら、以下のように答えています。

「どうしていけないのかは、わかりません。でも絶対に、絶対にしないでください。もしやったら、あなたが想像しているよりもずっと、あなた自身が苦しむことになるから、としか言えない」

彼の読書量と文章力からみても、被害者と被害者を大切にしていた人々と、犯行者の家族が、その後、どうなるかについて触れることは簡単だったはずです。しかし彼は、「犯行者が苦しむから、やってはいけない」とだけしか言えない状況です。元・少年Aには、手記を出す力・時期も状況も満たされていないと思いました。

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