「絶歌」は遺族感情を踏みにじる危険な書籍だ 借り物文章のようで贖罪意識は極めて希薄

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遺族の心の傷が癒えることはない(写真:石垣トモ/PIXTA)

遺族の心の傷を考えれば、“反省した”はずの加害者が出せるはずのない本が一方的に出版されました。今回は、読者の皆様からの相談ではなく、この問題を取り上げます。

18年前にこの事件が起こった当時、その猟奇的な手口や遺体の一部が校門の門柱に置かれたことから、事件は社会を震撼とさせました。酒鬼薔薇聖斗の名で警察に挑戦状を送り続けた彼を、まだ少年Aと呼ばれる前の、「『薔薇』という漢字が書ける人物」と騒がれた段階から、強い関心を持って詳細に成り行きを見守った者です。

そして18年後。元少年Aの手記が発売されて1週間が経ちました。初版が10万部で、早々と5万部の増刷が決まったと報じられても、私は読みたいとは思わず、出版されたことに憤りさえ感じていました。

遺族の心情を思うと耐えられない

そのいちばんの理由は、土師淳君や山下彩花ちゃんの遺族の心情を思ってでした。あのようにして命を奪われたことを、また白日にさらされるのです。これ以上、冒涜を受けるのは、私が遺族でなくとも耐えられないことでした。

2番目の理由は、手記ですから、いくら正直に書いても自分を美化する部分は避けられません。そこは遺族でなくとも許せないことです。遺族に対して、その前にすることがあるだろうという思いでした。

3番目の理由は、最近に至るまで、彼〈酒鬼薔薇聖斗〉を意識した凶悪犯罪者があとを絶たないことです(知人女性殺害容疑の名古屋大女子学生・1月など)。類似犯に、この手記が及ぼす影響を危惧しました。

このように、元少年Aが書く手記には何の関心もなかったのですが、以前、東洋経済でコラムを書いておりましたムーギーより、被害者の母親の視点での当該手記の批評を強く求められ、私も読んでみることにしました。

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