経済成長とモラル ベンジャミン・M・フリードマン著 地主敏樹、重富公生、佐々木 豊訳 ~大恐慌を例外に成り立つ正の相関

経済成長とモラル ベンジャミン・M・フリードマン著 地主敏樹、重富公生、佐々木 豊訳 ~大恐慌を例外に成り立つ正の相関

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

本書は、米国を代表する経済学者が、経済成長と社会モラルの関係を歴史的に分析したものである。社会モラルとは、女性の機会拡大や社会階層間の流動性、人種・宗教的多様性への寛容さ、公平性、デモクラシーへの志向などであり、経済成長と社会モラルの間に明確な正の相関が観察されると結論する。

成長期には、公教育や公民権などが充実すると同時に、対外的にも移民や通商などへの寛容さが増し、開放的となる。停滞期には、排外的、孤立主義的な動きが強まる。信憑性の高い情報が得られる南北戦争以降を対象にしており、米国経済史としても読み応え十分である。

本書では、成長期とは単にマクロ経済の成長率が高い時期ではなく、大多数の国民の所得が向上していた時期を言う。所得格差が大きい米国では、景気拡大期でも所得増加は一部の階層だけということも少なくない。たとえば、1920年代のジャズエイジはブーム期とみなされるが、所得増加は一部の階層だけで、成長の欠如による社会的緊張によって排他主義が広がった時代であることが示される。

30年代の大恐慌は、成長と社会モラルの正の相関の唯一の例外と分析される。経済崩落にもかかわらず、ニューディール政策では困窮者の救済策など社会保障制度が整えられた。あらゆる階層が危機に直面し、国民が共同体的紐帯(ちゅうたい)の意識に目覚めた、と分析する。危機があまりに深刻で、法則が当てはまる閾値(いきち)を超えていたのであろう。

原書の出版は2005年だが、08年の金融危機はどう位置づけられるのだろう。国民皆保険の導入を掲げる黒人大統領の誕生は、ニューディールの再来を予感させた。深刻な危機ゆえに、本書の法則が当てはまる閾値を再び超えたのか。しかし、わずか数年でオバマ大統領への熱狂的な支持は消え、その政策も多くの反対にあって骨抜きが進んでいる。著者の意見をぜひ聞いてみたいところである。

原書では英仏独についても分析されているが、経済成長と社会モラルの正の相関がそこでも成り立つことが示されている。

それでは、長期停滞の続く現在の日本に適用するとどうなるか。非正規雇用問題など、若年が犠牲となり中高年の正規雇用が守られている。社会保障制度改革は先送られ、将来世代へのツケ回しが続いている。農林水産業の一部の既得権益者を保護し、自由貿易協定の各国協議から取り残されている。逆境が硬直性や狭量に結び付くという本書の法則が当てはまる。

大恐慌が例外をもたらしたように、わが国でも大震災をきっかけに社会的紐帯が強まり、改革が進むことを強く願う。

Benjamin M.Friedman
米ハーバード大学教授。1944年生まれ。同大学卒業後、英ケンブリッジ大学で修士号、ハーバード大学で博士号を取得。80年より現職。マクロ経済学、特に金融面を重視した研究業績で知られる。米連邦準備制度理事会のエコノミストなども務めた。

東洋経済新報社 5040円 366ページ

  

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