ベンツはなぜ、日本人を魅了し続けるのか 日本法人社長が語るブランド再構築奮闘記

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販売が好調なメルセデス・ベンツ。Cクラスが牽引役となっている(撮影:尾形文繁)
新卒で入社し、48歳で初の日本人社長となった著者が、仕事人としての軌跡を軽妙な"金太郎節"で振り返る一冊。とうにでき上がった感のある名門ブランドを、輝き続けるブランドにしようと奮戦する、今現在の立ち位置について聞いた。

──2年連続で過去最高の販売台数を記録。今年はどうですか?

この2~3年、高級輸入車では1位でも輸入車全体では2位でした。それが今年1~4月はひょんなことから全体でも1位になってます。1~3月も過去最高を更新しましたし、4月も前年比37%プラス。モデルサイクルの切り替わりで、新型Cクラスが好調です。

古い"ベンツ"ではなく、新しい"メルセデス"に

──リーマンショック後の回復段階でも消えなかった、「明確な危機感」というのは払拭されましたか?

以前のウチは、出てくる新型を次から次へ売ってればいいよという会社でした。でも副社長時代、400万円台のCクラスという車種はすごく重要なポジションなんだと社内に徹底しました。上の車種へ移行してもらう入り口という意味ももちろんあるけど、その前に、そんなの安いクルマじゃないか、というウチの人間の勘違いを正したかった。

実際に自分で財布出して買うとなると、400万円ってスゴい金額です。それをウチの人間は400万、500万とサラリと言ってたわけですよね。そう言う僕も入社以来アタマおかしくなってたんだけど、顧客相談室を立ち上げたとき、消費者から生の声をボンボンぶつけられて、アレ、僕たち大勢で勘違いしちゃってんじゃないの!?、と気づかされた。

400万出して買ってもらうためには、それに見合う十分な価値があると実感していただかなくてはいけない。そこから売り方やお客様への提案の仕方など、全部変わりました。みんながそれぞれの持ち場からいろいろ提案してくるようになった。僕としてはそれ、メチャクチャうれしいわけです。

──目標は、金持ちの黒塗り高級外車というイメージからの脱皮?

ベンツという響きが持つ固定観念を払拭して、フレッシュで新しいイメージのメルセデスを創造していきたい。モノは変わらなくても、せめてメルセデスになろうよと言ってます。「メルくん」でいいよ、って。

未来のお客様全員の額に「メルセデスに興味あり」って書いてあるわけじゃない。だから僕たちから出合いの機会を作ってお伝えしたり体験してもらう。そんな発想で、家族連れが行き交うショッピングモールで展示会を始めたり、レストランやカフェを併設し気軽に立ち寄ってもらえる“クルマを売らないショールーム"を展開したり、アニメーションCMを作ったりしました。アニメはメルセデスの価値にふさわしい作品にしたくて結構なおカネかけて。

そんな子供だまし、昔からのお客が逃げるんじゃないかと言われたけど、僕は自信があった。自分のブランドが若い人たちの話題になり活気づいたら、何だかうれしくなるじゃないですか。未来のお客にアプローチしつつ、ロイヤルカスタマーも失わない。過去最高の台数を売らせていただいても、満足度が下がったら本末転倒。落ちるのは簡単です。

数も追うけど満足度も絶対に高く保つ。メルセデスという新しいライフスタイルを売る、そんな会社にウチはどんどんなっていきますから。みんなに求められる、「最も愛されるブランドへ」がカンパニービジョン。それ、すっごい高みなんですけど。

次ページあえて「愛されるブランド」を目指す理由
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