「待ち時間が長い」薬不足がもたらす薬局での支障 薬剤師が解説「今こそ薬に頼らない感染対策を」

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「連携でいえば、自身の薬局や近隣のグループの薬局で薬がそろわない場合、すべての薬がそろう他社の薬局を患者さんに紹介することはあります。しかし、不足したぶんを他社の薬局から融通してもらうことは現時点では期待できません。薬の入荷がいつになるかわからないためです。グループ薬局内で調整しあうことがほとんどです」(水さん)

平時には、会社の枠を超えて近所の薬局同士で薬を融通しあうこともありましたが、薬不足が厳しい現在ではそれは難しいようです。

一方で、薬などの医療資源を効率的に活用する取り組みを行っている医療機関があると水さんは教えてくれました。それは、茨城県のとある病院を中心に、近隣の保険調剤薬局を巻き込んで行われている「プロトコールに基づく薬物治療管理(Protocol Based Pharmacotherapy Management:PBPM)」の取り組みです。

この病院では、発熱外来の院外処方に関する問い合わせを簡素化するため、臨時のプロトコール(手順)を作成しました。

病院と院外の保険調剤薬局がプロトコールに関する覚書を締結しており、かつ薬の変更に患者が同意している場合、プロトコールで定められた咳止め同士であれば、事前に疑義照会(薬剤師が処方医に薬について問い合わせること。薬について確認事項がある場合に行われる)することなく、別成分の薬に変更することができます。病院への報告は調剤後でかまいません。

どういう仕組みなのか、咳止めの薬を例に詳しく見ていきましょう。

地域で新しい取り組みも始まる

咳止めの薬にはメジコン、アスベリン(チペピジンヒベンズ酸塩)、レスプレン(エプラジノン塩酸塩)、アストミン(ジメモルファンリン酸塩)などがあります。現在A薬局の咳止め薬の在庫はアスベリンだけです。

このA薬局に咳止めの薬メジコンを処方された患者がやってきました。

しかし、A薬局にはアスベリンはあるものの、メジコンの在庫はありません。近所の薬局に問い合わせても入手できなければ、似た効果を持つ別成分の薬アスベリンへの変更の可否を医師に問い合わせる、疑義照会が通常は必要です。

ところが、このPBPMを活用すると、プロトコールに記載された薬の変更は調剤後の報告でかまいません。患者は、薬局から病院への問い合わせの時間を待つことなく、薬をもらうことができます。

「咳止めの薬ではありませんが、プロトコールの運用で薬剤師の電話対応時間や疑義照会の完了にかかる時間が短縮されたという報告があります。待ち時間が短縮して助かるという患者さんも多いのではないでしょうか」(水さん)

この研究では、保険調剤薬局からの疑義照会に対し、病院薬剤師が薬学的な知見に基づいて回答を行い、事後で処方医が確認するという院内対応型のプロトコールが用いられました。

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