サ活ブームで大人気「今どきオシャレ銭湯」の実態 「経営難の銭湯」をリニューアルした夫婦の戦略

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浴場とは別になったサウナ専用エリアには、麦飯石の壁と国産ヒバ材を使用したサウナ室、水温13℃に設定された水深90センチの大水風呂、空を望める外気浴のスペースなど、オーナーこだわりの設備が設けられている。

銭湯利用料の520円にサウナ料金を加えた料金で楽しめる。なお、女湯にあるサウナ室は一般的な銭湯にもよく見られる小さなタイプ。そのためサウナ料金は男性用が530円、女性用が330円と差がつけてある。

毎週水曜が男湯と女湯の入れ替え日になっており、その日は女性も男性用のサウナを利用できる。

浴場は昔ながらの銭湯の雰囲気を残しながらも、人気漫画家ほしよりこ氏による銭湯絵の富士山など、若い世代に訴求する要素も取り入れた。あつ湯(43〜44℃)、薬湯(40℃)、炭酸泉(36℃)と、利用客が好みで選べるようさまざまな温度帯の浴槽を設置。また水風呂は地下水を汲み上げた掛け流し。肌あたりがやわらかい(写真 : Yurika Kono)

廃業の危機から、現代的な銭湯へ

「黄金湯」は1932年創業。もとはどこにでもあるような、街の銭湯である。

銭湯の黄金時代は1960年代。家庭に風呂がないのが普通だった時代、銭湯は欠かせない施設だった。しかし利用者は減少の一途を辿る。

少し古いが2012年にまとめられた調査では、東京都内の一般公衆浴場(いわゆる銭湯)利用者は年間2768万7000人。都内の公衆浴場数741施設で割り、1施設の1日あたりの平均利用者数を求めると102.4人とある(厚生労働省・公衆浴場業(一般公衆浴場)の実態と経営改善の方策より)。

黄金湯も近年、日に100人を切る日もあるなど、経営は厳しくなっていた。

2018年になって、経営者の高齢と後継者不在を理由に廃業するところを、近所で銭湯を営む夫婦が引き継ぎ、現代的な銭湯へとリニューアル。2020年8月にオープンを迎えた。

コロナ禍まっただ中だったため集客が心配されたが、当日から多くの人が訪れ、サウナ待ちの列もできた。事前に開業の情報が広範囲に広まっていたことも理由としてある。

オーナーの新保朋子さんによると、コロナを挟み工事期間が延びてしまったため、改装費が予定よりオーバーしたそうだ。クラウドファンディングで不足分を募ったところ、近所の人、銭湯ファンなど1000名以上が支援。目標額650万円を3日で達成できた。

「億単位の費用をかけての改装。うまく行くか、泣きそうなぐらい心配でしたが、日本中の人から応援を頂き『銭湯が残ってもいい』という勇気をもらえた出来事でした」と、朋子さんは振り返る。

番台にはクラフトビールのサーバー。2023年12月からは、黄金湯の自社ビール工場でつくられるオリジナルビールを提供(筆者撮影)

現在の集客数は非公開だが、冒頭に説明した賑わい具合から見ても、かなり流行っているのは間違いない。客層は7割が20〜30代、1割が外国人、2割が近隣住民。主に昔から黄金湯に通う、年配の人だ。

朋子さんの夫の新保卓也さんは、

「現代的に改装することで、常連客が離れてしまうのではという心配もありました。ところが、お年寄りといっても、皆さん気持ちが若い。新しい銭湯の形を受け入れてくれました」と説明する。

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