検査不正後の三菱電機、工場で感じた「残念な点」 鉄道部品大手「再発防止策」は万全なはずだが

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これらの視察が終わった後、質疑応答を経て視察会は終了した。しかし、1つだけ気になったことがある。今回の視察会で、三菱電機の側から「検査不正」という言葉は一言も発せられなかったことだ。当方が検査不正について質問をすると、「品質の事案については……」と言葉を言い換えて答えが返ってきた。

三菱電機 都築貴之所長
三菱電機伊丹製作所の都築貴之所長(記者撮影)

同社のホームページを見ると、漆間啓社長は「品質不適切事案」という表現を用いている。もちろん、それでよいのだが、せっかく社長が「品質不適切事案」と言っているのに、現場では「不適切」という言葉が消えている。「品質の事案」では何のことかわからない。現場では「不適切」から逃げているようにも感じられる。

この点について同社広報に確認すると、「品質の事案」という言い方は伊丹製作所に限らず、よく用いられているという。「あくまで言いやすいからそのような言い方をしているのであって、不適切な事案があった事実は社員全員が認識している」とのことだった。

「検査不正」再発防止へ踏み込んだ発言なし

不適切事案の言い換えだけではない。都築所長は視察会の目的について「よりオープンな工場を目指すため」と発言したが、調査委員会の最終報告から1年後というタイミングであることを踏まえると、検査不正に関する再発防止策がきちんと実施されていることを広く伝えることも視察会の目的に含まれているはずだ。だが、品質不正に対する踏み込んだ発言はなかった。その結果、翌日以降の報道を調べた限り、「伊丹工場を初公開」といった内容にとどまり、再発防止策に触れたものはなかった。せっかくの視察会の目的が曖昧になってしまった。

漆間社長は「品質不適切事案への反省を踏まえて、品質風土、組織風土、ガバナンスの3つの改革を着実に進めていく」とホームページで述べている。視察会の翌20日には「3つの改革」の進捗状況が発表された。そこにはIT化、デジタル化による品質強化の取り組みや風化防止の取り組みに関して記述されており、会社として再発防止にきちんと取り組んでいることが示されている。こうした社長の決意の声が現場から聞こえてこなかったのは、いささか気がかりである。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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