アメリカの対外交渉力が劣化し続けている TPP交渉で露呈した弱気な姿勢

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米国内でもTPPに対する反発は根強い(Photo by Joe Radle / Getty Images News)

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が今後も混迷すれば、米国が善良な世界の覇者の役割を果たすのは難しくなるだろう。ホワイトハウスは同協定を今年中に締結、批准しようとしている。うまくいかなければ、2016年の米国選挙により、批准に関する投票が2017年以降にずれ込む可能性がある(当初目標は2012年だった)。

付随する国内法の文言作成には最大6カ月かかる。投票を今年中に行うには、貿易促進権限(TPA)に関する米国議会の承認を5月中か6月上旬には取り付け、かつ11カ国のTPP交渉相手国が6~7月に交渉を締結するよう説得しなければならない。

「善良な覇権国」としての米国の役割

遅れている原因はTPP交渉国や、米国内の反対派だけにあるわけではなく、米国の交渉姿勢にもある。もし締結を遅らせることでよりよい内容にできるのであれば、リスクを負ってでも交渉を遅らせる価値はあるかもしれない。

善良な覇権国としての米国の第2次世界大戦以降の役割の大部分は、自由貿易を支持することにあった。輸出主導型成長を通して繁栄を促し、それで支持を得た今、1960年代前半のインドネシアとマレーシアの対立に見られるような小規模な領土争いは、すでに過去の歴史だ。

中国の領土・領海をめぐる乱暴な行為が対立のリスクを生むのは間違いない。とはいえ毛沢東の時代に比べれば、中国の国際的脅威ははるかに小さくなった。長期的には、中国をTPPに参加させることは同国の政治的進化を促す。それにより、中国内で経済の自由化を望む者たちが力を得て、より責任あるステークホルダーとして中国を世界にかかわらせられるようになればと願っている。領土・領海とは関係しない多くの分野では、同国がすでに担っている役割だ。

米国の貿易はすでに開かれており、TPPから得られる経済的利益の大部分は貿易相手国に向かう。TPP推進派のバイブルである報告書「環太平洋の連携とアジア太平洋諸国の統合」によれば、TPPありでの米国の25年の国民所得は、TPPなしでのそれと比較して、わずか0.4%の増加にとどまるとされている。日本の場合は2.2%、マレーシアで6.6%、ベトナムは14%の増加となる。

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