ドラマから始まった台湾#MeToo運動の奥深さ ジェンダー平等先進国台湾でも問題は根深い

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台湾の#MeToo運動は1つのドラマがきっかけとなった(写真・RyanKing999)

「我們不要就這樣算了、好不好?很多事情不能就這樣算了、如果這樣的話、人就會慢慢地死掉、會死掉」(これでおしまいなんてムリだよ、でしょ?このままではだめ。じゃないと、人はゆっくり死んでいく、死んでしまう)

これは、2023年5月末から台湾で巻き起こっている#MeToo 運動のきっかけともなった、台湾オリジナルのNetflixドラマ「wave makers~選挙の人々~」の主人公のセリフだ。

ドラマのような現実での告発

優れたクリエイティブ、そして映像の力は社会に大きな影響を与える。このドラマもまさにそうで、まずは与党の民主進歩党(民進党)から火が付いた。

以前、民進党スタッフとして働いていた女性たちが、当時セクシャルハラスメントを受け、上司に訴えたがもみ消されたり逆に謝罪を要求されたりし、精神的に傷を負って職場を離れた経験をフェイスブックで次々と告発したのだ。「ドラマのような出来事」が目の前で展開していくのを受けて、台湾社会は騒然となった。

これにより、蔡英文総統や頼清德副総統(民進党党首)が謝罪したうえで関係者が辞職、民進党内での調査が始まり、ジェンダー平等法改革法案がすぐに提出された。

当初は民進党の問題とされていたが、野党にも飛び火した。その後、国際的に知られる社会運動家や有名メディア業界人、芸能人の名前が次々と上がった。有名司会者として知られる男性タレントが告発され、YouTubeで謝罪したうえで自殺さえ図った。

日台合作ドラマにも出演した人気俳優も、かつて交際していた男性から性行為の強要や盗撮されたことを訴えられ、謝罪した。こうして台湾#MeToo運動は、メディア界、文化界、学術界へと猛烈な勢いでまたたくまに燃え広がって行った。

筆者の手元には、有志がこの度の一連の動きを記録した「台湾#MeTooリスト」がある。このリストは毎日のように更新され、この3カ月で200人以上の名前が挙げられている。男性のみならず女性もおり、セクシャリティもさまざまで、もみ消しなど加害者をほう助し2次加害した例もある。

権威のある大学教授や政治家、世界的に名を知られる社会運動家、台湾駐在の外国人外交官から食堂のオーナー、学校の同級生や家庭教師まで、どんな社会的立場であろうと「過去に何らかの形で性的加害をした」と指摘を受けた人々の名前と告発者、根拠となった告発文へのウェブリンクが淡々と連なっている。

このリストの作成者は「加害者が、社会資本を使ってもみ消すことが多発している」「メディアは話題として使いやすい#MeTooばかり選んで報道する傾向があるので、最新の告発が風化しないように」と語っている。

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