台湾人はなぜ地方選で親中政党を支持するのか 巨大権力警戒、日本人が知らないバランス感覚

✎ 1〜 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 12 ✎ 最新
拡大
縮小

11月に予定される地方選では国民党が圧倒的優勢。国政選挙では民進党の相対的優位が続く。

2018年の台湾地方選
台湾の地方選では生活改善など身近な話題が焦点。中台情勢の緊迫はあまり影響しない(写真は2018年の前回地方選時、記者撮影)

特集「緊迫 台湾情勢」の他の記事を読む

台湾情勢の緊迫に世界的な注目が集まっている。8月には中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行い、10月の中国共産党大会では習近平総書記の3期目突入が決まり、台湾統一への強い決意を改めて示した。
そうした中、台湾は11月26日に統一地方選挙を迎え、その1年2カ月後の2024年1月には総統(国政)選挙が行われる。地方選1カ月前の情勢では親中政党の中国国民党(以下、国民党)が圧倒的優位を保つのに対し、蔡英文総統が率いる与党・民主進歩党(以下、民進党)は22ある県市の首長ポストのうち2~3割しか獲得できない恐れが出ている。
地方選での国民党優位は何を意味し、総統選挙や台湾情勢にどう影響するのか。また台湾人の政治意識はどのようなものか。台湾政治を専門とし、分析水準の高さから現地では「選挙の神様」とも称される東京外国語大学の小笠原欣幸教授に解説してもらった。

 

――11月の地方選の結果をどう予想していますか。

現時点では国民党が大勝し、民進党が大敗する可能性が高い。国民党が全般的に優勢なのは再選を目指す国民党の現職首長が安定しているからだ。台湾の地方選挙では現職の施政満足度が一定以上ある場合は再選されやすい。

前回の2018年地方選では、2016年国政選挙で大勝した民進党が進めた改革への反発もあり、国民党が22県市のうち15県市を獲得した。南部最大都市・高雄市長のポストに就いた韓国瑜氏はその後、罷免されたが、国民党は現有14県市を維持する勢いで上乗せの可能性もある。一方の民進党は前回の惨敗並みかそれを下回る敗北を喫する可能性がある。

――民進党は2018年の地方選挙で敗北したものの、2019年に中国が台湾への態度を強硬にしたことへの毅然とした対応が評価されたほか、香港情勢への危機感を背景に支持を回復し、2020年の国政選挙では圧勝しました。現在の台湾海峡情勢の緊張は地方選で民進党に有利に働かないのでしょうか。

8月のペロシ米下院議長の訪台やそれに伴う中国の大規模軍事演習、10月の中国共産党大会など国際的な出来事の影響は今回あまりない。台湾の有権者の多くは国政選挙と地方選挙の争点を分けているからだ。対中関係が争点になる国政に対し、地方選は地元の経済発展や生活改善など身近な問題が焦点となる。

次ページ権威主義体制の教訓
関連記事
トピックボードAD
連載一覧
連載一覧はこちら
トレンドライブラリーAD
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
特集インデックス
緊迫 台湾情勢
米中対立、「台湾」が緊迫の焦点となる2つの事情
テクノロジー覇権争いと民主主義の重要なカギ
中国の「台湾侵攻」に日本が備えておくべき理由
「巻き込まれたくない」という話では済まない
中国が悲願の「台湾統一」へ使い分ける2つの手段
軍事行動に限らず現地協力者を通じた迂回策も
台湾TPP加盟申請で問われる「岸田新政権」の手腕
中国が先に申請したことで揺れる台湾政府
TPP加盟申請で激突、台湾と中国に求められる条件
国際政治と経済分野の識者はこう見る
台湾の最大野党が「蔡英文」の牙城を崩せない憂鬱
民意と乖離目立つ対中姿勢、カギは経済の議論
ウクライナで「台湾侵攻」の可能性は高まったのか
問われる戦略的価値、日本の当事者意識も重要
バイデン大統領の「台湾防衛」発言に透ける真意
日本として対応を平時から議論しておくべき
ペロシ議長を歓迎した台湾に残された爪痕と自信
いたずらに緊張高めたが抑止強化は続けるべき
台湾包囲の軍事演習で中国が抱えた「ジレンマ」
中台関係に詳しい東京大学・松田康博教授に聞く
台湾人はなぜ地方選で親中政党を支持するのか
巨大権力警戒、日本人が知らないバランス感覚
国民に嫌われた台湾与党「民進党」は復活できるか
傲慢さと驕りを反省し謙虚さを取り戻す必要
台湾総統選、どん底から立ち直った民進党の実力
民進党は序盤の優勢をいつまで継続できるのか
米中の戦略は台湾総統選にどう影響しているのか
冷静な台湾社会で「疑米論」が広がるか焦点に
台湾の国民党が「親中」と呼ばれている数奇な経緯
敵対していた中国共産党との協力は約20年前に
知っているようで知らない「台湾独立」の真の意味
中国の情報戦で誤解も広がる重要キーワード
それでも世界の電子産業は台湾から離れられない
サプライチェーンの再編も台湾企業頼み続く
台湾総統選まで半年、第3候補は本当に躍進するか
支持率3位の候補が二大政党に食い込む波乱
台湾総統選で第3候補が意外な人気を集めた背景
受け答えのうまさと裏腹の失言という弱点
中国に「悪夢」?カリスマ経営者の台湾総統選出馬
利益誘導の限界露呈、民進党3期連続が現実味
台湾総統選、「8月決戦」の結末は与党候補に軍配
勝算なき著名実業家の参戦で混迷する野党勢力
台湾総統選、ラスト3カ月で劣勢野党の逆転あるか
難しい野党連合の実現、与党優勢で攻防続く
ハードウェアの強みを生かし世界の企業と接点
台湾総統選に大異変、急転直下の野党統一候補へ
選挙戦仕切り直し、野党連合は最後までもつか
台湾総統選、野党連合「ドラマ」終幕から3者競争へ
与党のリードは続くか、選挙戦はどう動くか
台湾総統選まで3週間、野党逆転・中国介入あるか
終盤戦を左右するのは突発的事態や外的要因
台湾・国民党への日本の懸念と期待は行きすぎだ
見るべきは「政党」ではなく台湾の「民意」だ
台湾総統選の争点には「92年コンセンサス」も
米中間で絶妙なバランス感覚をもつ台湾の有権者
台湾では中国との距離感が対立軸としてある
台湾の人たちは次の4年をどのように選んだのか
2024台湾総統選、小笠原欣幸の完全徹底解説
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT
有料法人プランのご案内