円高転換のタイミング見極める「3つのポイント」 今のドル高にはいつか終止符が打たれる

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アメリカが過去に関わった戦争の経緯を考えると、戦争開始時点ではなく、それ以前の部隊の移動などの〝準備段階〞で、すでにドル高が始まっていた。そして、戦争終了後はドル安へと向かう傾向がある。

今回も戦争終了までは、つまり少なくともロシアによるウクライナ侵攻が何らかの落ち着きを見せるまではドル高は継続しやすいはずだ。あえて時間軸を挙げるなら向こう半年から1年程度といったスパンで、より具体的には少なくとも2023年から最長でも2024年年央あたりまでは、アメリカはドル高を引っ張るものと予測する。

ここで何より留意しておきたいのは、ドル高のあとはドル暴落という〝戦後処理〞が待っているということだ。

例えば日本人投資家が1ドル=135円あたりで外貨預金をしたとしよう。ところが1ドル=100円までドルが急落すれば、日本人は35円分の為替差損を被る。為替はゼロサムゲームである。日本人投資家が損をした分は、誰かが儲かることになる。

徐々に円高にするのではドル売りを仕掛ける側の旨味は乏しい。ここで大儲けするためには相手に考える暇を与えることなく、つまり一般の投資家が損失を最低限にとどめられる水準で市場から撤収できるような隙や余裕を与えることなく、ごく短期間で一気に円高・ドル安にするしかない。実のところ、それはアメリカ側が過去何度も利用してきた常套手段のように見受けられるのだ。

ドル高のピークアウト見極める3つのポイント

世界中からかき集めたお金を、急激なドル暴落により借金棒引きに持っていく。おそらく本格的なドル下落は、2024年の年央あたりまでに発生するのではないか。

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とはいえ、状況次第でトレンド転換の時期は前後するものである。ドル高がピークアウトするタイミングがいつ頃になるのかをより見極める目安として、以下3点を挙げたい。

第一に、FRBの政策金利の引き上げがどこで転換するのか。そして、日銀は緩和修正の姿勢を一段と強めるのか。第二に今回のウクライナ侵攻の戦況がどうなるのか。ウクライナのみの局地戦にとどまるのか、それが長引くのか、もしくは周辺国に拡大するのか、あるいはそれ以上に飛び火するのかで、ドル高の継続時間は短くも長くもなりうる。

第三として重要な手立てを紹介しておきたい。これまでアメリカはかなり頻繁に、そしてわりと唐突に為替政策を変更してきた経緯がある。現状、アメリカがドル高戦略を所望しているのか、あるいはドル安戦略を所望しているのかはアメリカ財務省が公表する「為替報告書」の内容を見るとある程度予測できる。

岩永 憲治 岩永グローバル経済研究所代表

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いわながけんじ / Kenji Iwanaga

熊本出身。陸上自衛隊所属中、レンジャー養成課程へ選抜。自衛官になるか大学進学かを迷ったのち、四年制大学に進学、1987年に明治大学政治経済学部を卒業。在学中にアルバイトの派遣先として外資系銀行のディ―リング・ルームに配属され、外国為替の売買に携わるように。大学卒業と同時にプロフェッショナルの為替トレーダーとなる。スイス、英、米、豪、カナダ各国銀行で30年以上、トレーディングの最前線で研鑽を積み、その後各銀行においてセールス部門のヘッドに。財務省への担当(MOF担当)や日本銀行への担当(BOJ担当)としても従事。その後、一定期間のブランクの後、金融コンサルティングを再開。

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