なぜ地方創生はみんなで決めるとダメなのか 何かを変えねばならない時、合意形成は必要?

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一般的に、集団意思決定をする際には以下の3つのワナがあり、地域での集団の意思決定でもこうした問題を常に抱えていることを認識する必要があります。

(1)「共有情報バイアス」のワナ

「集団は皆に共有されている情報に関する議論に多くの時間を費やし、共有されていない情報に関する議論には多くの時間を費やさない」という傾向がある(Stasser,1992)、と言われます。これが共有情報バイアスです。

合意形成を図ろうと皆で集まって議論しても、そこで共有されていない「第三の情報」については、当然ながら多くの時間は費やせません。結局、集まったグループが持ちえる情報でしか議論はできません。地域活性化のプロジェクトに決定的に必要な観点が、そこで抜け落ちたカタチで合意形成がなされたとしても、その合意形成は全く無意味だったということになりかねません。 

(2)確証バイアスのワナ

個々人の先入観や選好からスタートして、それを確証する情報ばかりを集めて自分の先入観や選好を補強していくという現象があります。これが確証バイアスです。

地域活性化においても、やはり自分たちの意見に合う情報だけを集めてしまう傾向が強いのです。「うちの地域が衰退しているのは◯◯が問題だ」というような話で皆が合意をすれば、その問題構造を補強する情報ばかりが集まってしまいます。例えば、「商店街が衰退したのはイオンのせいだ」とか、「最近の若者は甘すぎる」いう意見はその代表例です。これらは一因ではありますが、全部の原因ではありません。しかし、そう思い込んで合意したグループは、それに対応した情報ばかりを集めてしまいがちです。

(3)集団浅慮(しゅうだんせんりょ)のワナ

賢い集団が、さまざまな情報を収集し、集団で意思決定を下す時であっても、大きなミスを犯すことは度々あります。昔から真珠湾攻撃、ベトナム戦争、ピッグス湾事件などはその代表例と言われますが、地方都市における再開発事業などでも調査がなされ、皆が合意をし、税金まで投入されるまで民主的に決定されたにも関わらず、大失敗を繰り返したりしています。これらは人が集まるとある意味例外なく起こる、以下の問題に起因します。

(a)集団の力と道徳性の過大評価

自分たちは有能で優れた意思決定を行っているという幻想が共有され、過大なリスクテイクに傾き、自分たちの集団的な結論が道徳的にもよいものであると、無批判に受け入れる傾向があります。「ウチのまちは歴史的に特別である」「自分たちは国や自治体から選ばれた優れたチームであって、自分たちがやることこそ地域を再生するのだ」、というような思い込みも問題の一つとなります。

(b)閉鎖的な心理傾向

不都合な情報を割り引いて解釈し,当初からの意思決定を「合理化」してしまう努力のことを差します。とりわけ「敵」を蔑視するあまり,敵の能力を低く見積もる傾向が出現します。敵のリーダーを悪人だとレッテルを張り、無能化したりステレオタイプ化するのもひとつの傾向です。衰退する地域では、敵である「他の都市」や「競合する商品・サービス」のあら探しばかりをして盛り上がり、自分たちのマイナス情報には目を向けないということがこうした心理にあてはまります。

(c)「斉一性(せいいつせい)」への圧力

問題だと思っても、言い出す前に自重してしまうことです。「満場一致の原則」では、誰も真剣な反対意見を述べないので、誰もが他者はそのプランを支持しているのだと思い込みます。しかも,反対意見を言って集中砲火を浴びるよりは,その場の雰囲気を壊さないことを優先してしまいます。最後には「番人」を自認するような人が現われ,都合の悪い情報を排除し,反対意見を言う人に圧力をかける、ということまで起こります。

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