陸自3人死傷の銃撃事件から見える装備の貧弱さ 有事になれば他国の軍隊の何倍も戦死者を出す

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だが、先述のように陸自は防弾チョッキが欠如している状態であり、他国に供与する余裕などなかった。岸田総理や当時の岸信夫防衛大臣は知っていたのだろうか。

そして岸大臣はウクライナに供与した防弾装備が機能するか否かの追跡調査をするかという筆者の記者会見での質問に対して、「人体実験のようなことはしない」と、行わないことを明言した。防衛大臣としての資質を疑うものである。

そして既存の防弾チョッキには大きな問題がある。ソフトアーマーと防弾プレートを合わせれば重量が15キログラム前後と極めて重くなることだ。これに銃や装備を合わせれば重量は40キログラムは超えるだろう。しかも2型の防弾プレートはデザインが悪くて、車の運転や射撃の邪魔になる。

また通気性が極めて悪く、気温が30度を超し、高温多湿のわが国ではこれを着て、戦闘することは困難であり、熱中症になる可能性が大きく、体力も気力も消耗する。まだ陣地防衛などならばいいだろうが、いわゆる下車歩兵、つまり自分で歩いて戦うことになる普通科隊員が着用して戦うのは不可能に近い。

調達自体が完全に失敗に終わった

どこの国でも歩兵個人装備の重量化は問題となっており、そのため今世紀に入ったぐらいからアーマープレートのみを装着した軽量なプレートキャリアが採用される国が多くなった。これは先進国だけではなく、中国を含めた途上国でも標準的に採用されている。例外は陸上自衛隊だ。

筆者は2年前に岸防衛大臣(当時)や、吉田陸幕長に現物を示して、どうしてアメリカ軍だけではなく、英仏豪など他国と演習や訓練を行っていて、陸自だけプレートキャリアを使用していないことを奇異に思わないのかと会見で質問した。岸大臣は装備に疎いと思ったので、両者のサンプルを持ち込んで示したのだ。これが岸大臣の不興を買ったらしく、以後の会見では筆記用具以外の持ち込みが禁止となった。

18式防弾ベスト(写真:陸上自衛隊)

この質問が効いたのか否か知らないが、本年度からプレートキャリアとソフトアーマーを組み合わせた「18式防弾ベスト」が導入され、本年度予算には8000セットが27億円で要求されている。一歩前進ではある。

だがこれはすなわち3型改良型が全隊員に行き渡らず、しかも配備された3型改も多くは防弾プレートが装備されておらず、調達自体が完全に失敗に終わったことを意味している。

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