陸自3人死傷の銃撃事件から見える装備の貧弱さ 有事になれば他国の軍隊の何倍も戦死者を出す

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この「18式防弾ベスト」と合わせて防弾ベストやプレートキャリアの下に着る戦闘シャツも諸外国同様にヒートマネジメントを考えたものが採用されることになった。陸自の個人装備はほぼ20~30年は遅れている。

いまだにベトナム戦争時代と同じY型サスペンダー(ヨーク)で2インチ幅のベルトを吊る、しかも第2次世界大戦時と同じ弾帯の留め具を使用しているのは世界でも自衛隊ぐらいのものである。

さらにいえば諸外国ではすでに導入されているポリカーボネート製などの目を保護するアイセーフも導入されていない。これは散弾銃の弾程度なら防げる強度を持っている。射撃訓練でもガンオイルや火薬の燃えカスなどが目に入ることは少なくない。また銃弾が薬室で破裂するなどの事故も想定される。

まして実戦では砲弾やさまざまな破片が目に入ってくる可能性は高い。眼球は破損からの回復が難しい。しかも陸自では以前120ミリ迫撃砲の暴発事故で失明した隊員も出ている。

またレーザー測距儀やデジグネーター、あるいは目潰しが普及して有害なレーザーが目に入ることも想定されている。にもかからず、陸幕はいまだにこれを導入していない。また陸自ではサングラス使用は基本禁止で、着用する際には医官の診断書が必要とされるが、まるで高校の校則である。

JIS規格に合わせた戦闘ヘルメット

陸自のヘルメットも時代遅れだ。88式鉄帽2型は2013年から採用されている最新型で陸自でも十分に普及していない。砲弾の破片に近似した弾速の拳銃弾が命中した際、10センチほどへこむ。貫通しないから問題ないというのが陸自の考え方らしい。だがおそらく頭蓋骨は5センチ程度陥没する。これで隊員が無事な訳がない。対して同時代のアメリカ軍のそれは、拳銃弾よりも弾速が速いトカレフ拳銃弾で撃たれてもへこみは2.5センチ以内である。

他国ではアフガニスタンなどの戦訓から耐衝撃用クッション製の小型パットを多数ベルクロで張り付けるものを採用している。これは被弾時の衝撃で外傷がなくとも脳に大きなダメージを受けることがあるからだ。対して88式2型はいまだに安全ヘルメット同様のハンモック式を使用している。

仏軍の最新型ヘルメット。衝撃吸収パッドを採用している(写真:筆者)

また諸外国のヘルメットは爆風がヘルメット内に入ってその圧力による負荷が頸部を損傷することを防ぐために、一定圧力を受けるとあごひもが外れる仕組みを採用しているが、この機能もない。

現役の隊員によればその背景には、戦闘ヘルメットを想定していないJIS規格に合わせる必要があるからだという。防衛省は実態に即さない法令の変更に消極的で、現在の法令に合わせて不合理な装備を開発することに違和感を持たないという文化がある。

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