日本企業が疎い投融資先の思わぬ「人権リスク」 人権デュー・ディリジェンスを知っていますか

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企業の人権尊重の必要性について国際的な関心が高まる中、日本企業もさらなる理解とコミットメントが欠かせない(写真:metamorworks/PIXTA)
近年、企業の人権尊重の必要性について国際的な関心が高まる中、欧米諸国では企業の人権尊重を目的とした法制化が続いているほか、日本政府も公共調達の入札企業に人権尊重の確保を求める方針を公表している。こうした中、サプライチェーン上のさまざまな人権課題について、日本企業もさらなる理解とコミットメントが欠かせなくなっている。
本稿では、『基礎からわかる「ビジネスと人権」の法務』の著者で、弁護士の福原あゆみ氏が、企業が行う投融資を通じて人権侵害に関与していないか、という問題意識の高まりとその背景について解説する。

人権デュー・ディリジェンスとは何か

グローバルレベルでの人権意識の高まりに伴い、企業が行う投融資を通じて人権侵害に関与していないかといったスクリーニングの視点が求められつつある。例えば、投融資を行ったプロジェクトにおいて投融資先により人権侵害が行われた場合、投融資を行った企業、または金融機関としても、投融資を通じて間接的にその人権侵害を助長しているのではないか、という問題意識である。

このような問題意識の背景にあるのは、国連のビジネスと人権に関する指導原則などにより提唱されている「人権デュー・ディリジェンス」の考え方である。一般的に、人権デュー・ディリジェンスは、企業のサプライチェーンにおいて、人権侵害のリスク(人権リスク)を特定し、それを防止・軽減し、取り組みの実効性を評価し、その結果について情報開示を行うという、継続的な一連のプロセスを指す。

企業がその活動において、人権侵害のリスクをゼロにするということは事実上不可能であるため、人権デュー・ディリジェンスとは、人権リスクをゼロにすることを目指すのではなく、優先順位の高いリスクから取り組んでいくという、いわゆるリスクベースアプローチを前提にしたコンセプトとなっている。

人権デュー・ディリジェンスは、ヨーロッパを中心として法令化が進んでおり、日本政府も、2022年9月に人権デュー・ディリジェンスのガイドラインを制定・公表している。同ガイドラインの中では、人権侵害のリスクが重大な事業領域や企業の関与の程度を特定したうえで、深刻度や発生可能性を考慮して優先順位を判断することが推奨されている。

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