セブンの礎築いた伊藤雅俊氏がかつて語った本音 「世襲」「企業価値」「人材育成」の考えをひもとく

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セブンを築いた伊藤雅俊氏
イトーヨーカ堂を創業しセブン&アイグループの礎を築いた伊藤雅俊氏(右、1996年当時)。1924(大正13)年生まれで、戦後日本の流通業界を代表する一人だ(撮影:尾形文繁)

イトーヨーカ堂やセブン‐イレブン・ジャパンなどを傘下に置く、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)。その実質的な創業者である伊藤雅俊(いとう・まさとし)名誉会長(享年98)が、2023年3月10日に逝去し4月末に四十九日も終えた。

セブン&アイは、伊藤氏逝去前日の3月9日、スーパーストア事業に関する施策を発表した。祖業であるイトーヨーカドー店舗を、直近の126店から2026年2月末までに93店へ縮小し、「食」にフォーカスするため、自社運営のアパレル事業から完全撤退する、というものだ。

これは、単なる偶然だったのか。5月25日の株主総会を前にして、物言う株主(アクティビスト)と呼ばれる主要株主、バリューアクト・キャピタル・マスター・ファンド(以下、バリューアクト)とセブン&アイ現経営陣との対立が深まっている。

このうねりの中で、伊藤氏は生前、創業者としてセブン&アイにどのような思いを巡らせていたのだろうか。関係者であれ、伊藤氏の胸の内は計り知れない。つまり、「秘め事」なのだ。

2016年のセブン入社式での伊藤氏
2016年のセブン&アイの入社式。伊藤雅俊氏(右)のほか、入社式の約1カ月後に同社会長を退任した鈴木敏文氏(右から2人目)、さらには現社長の井阪隆一氏(左)が並んだ(編集部撮影)

公人である経営者は孤独であり、本心をさらけ出さないものだ。「経営の神様」と言われた松下幸之助氏(パナソニック創業者)や稲盛和夫氏(京セラ創業者)でさえ、表で語られていない実像がある。筆者を含めて第三者はいろいろと論じているが、経営者が本当に考えていることなど、そう簡単にはわからない。

それが、全面的情報開示とそれに基づく合理的意思決定が前提となっているコーポレートガバナンス(企業統治)の死角と言えよう。とはいえ、インタビューを行ったときに、ふと本音を漏らすこともある。その言葉とは……。

会った際の印象は「知的商人」

筆者は、石井淳蔵氏(神戸大学名誉教授、元・流通科学大学学長)とセブン&アイの本社(東京都千代田区)で、伊藤氏にロングインタビューを行った経験を持つ。ひと昔前に当たる2010年9月10日のことだ。

伊藤氏は、すでに名誉会長になっていた。晩年の車椅子で移動する姿ではなく、颯爽としていた。86歳という歳を感じさせないほど頭の回転が速く、快活な口調で話してくれた。

そのときの印象を一言で例えると「知的商人(ちてきあきんど)」であった。経営学者のピーター・ドラッカー博士とは、約40年にわたり家族ぐるみで付き合い、経営について議論し合ってきた。読書家でもあった。これらのエピソードからも知的な一面がうかがえる。どのような質問をしようが、伊藤氏はデータを明示し論理的に説明した。

ただし、その話し方は、お客さんを相手に難しい内容でも平たく語る「商人の言葉」だった。商人は、お客さんに笑顔で感じよく接するが、商売には厳しいので社(店)内では強いリーダーシップを見せる。インタビューをしている最中でも、従業員に指示を出すときは厳格な一面を覗かせ、商家の旦那様然とした趣を感じさせた。

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