(第57回)胃腸系の話(その1)

山崎光夫

 私の知り合いに天丼を食べると必ず胃腸の具合がおかしくなる人がいる。3~4日間は下痢に悩まされ、もう二度と天丼を食べたくないと思う。だが、しばらくするとまた天丼を食べたくなる。天丼が大好物なのだ。やめられないらしい。
 「エビとコロモとタレとシャリのハーモニーが絶妙」
 と夢を見ているような目をして言う。
 で、また食べると下痢に見舞われる。
 二日酔いの胃腸版のようなもので、
 「天丼胃腸炎だ」
 と本人が言っている。でもまた食べてしまうのである。天丼依存症ともいえるだろう。

 ストレスがたまると胃腸に来る人。寝不足になると、てきめんに胃腸をこわすタイプ。
 こんな胃腸に弱点を持っている向きは大勢いる。
 若者に草食系、肉食系があるが、消化器に症状が表れやすい人は胃腸系といえるだろう。
 一方、ドキドキと動悸(どうき)しやすいのは心臓系、コンコンと咳が出やすいのは気管支系といえる。
 人はこの3系のどこかに弱点を持っているようだ。

 消化器の入口は「口」で、出口は「肛門」である。口、食道、胃、小腸、大腸、肛門とつながり、いわば一本の管。
 いつも胃腸の具合が悪くすっきりしないタイプは、いっそ口から肛門まで取り外し、管の中に水を入れてジャボジャボ洗ったらどんなにかスッキリするだろうと思ったりもするらしい。
 インドのヨガの行者は、口から飲み込んだ糸を肛門から出して見せるという。一本の管を証明する芸当であろうか。

 かくいう私も胃腸系である。
 医者からは、逆流性食道炎の診断をもらっている。年齢から来る老化現象の1つといえる。
 長年、胃腸系で便秘属だった。が、ここ数年、便秘属から脱却している。これはヨーグルト、リンゴ、大根おろしを毎日のように食しているからだと思っている。

 中でも強い味方が大根おろし。消化作用は抜群。
 大根をおろし金でおろすと消化効果が生まれる。細胞が壊れ消化酵素のジアスターゼが産生される。大根本体をただ千切りにしただけではこの効果はないようだ。
 おろし金は日本人の知恵である。
 サンマや天ぷら、厚揚げ、イクラ、さつま揚げ、肉料理などのあぶら物に大根おろしを添えるのは理にかなっている。あぶらを中和してしまう。
 歴史をたどれば、高峰譲吉はこのジアスターゼを麹菌から抽出して消化薬「タカジアスターゼ」を開発した。
 私にとって大根は食卓の名優で、決して大根役者ではない。

 福井県の郷土料理に「大根おろしそば」がある。
 簡単な料理で、普通のもりそばの上に、大根おろしとカツオ節、濃い目のつゆをかけたもの。
 福井出身の私としては毎日食べても飽きない。身近にこんな胃腸系改善食があった。
 気づかぬうちに郷土料理で私の胃腸は癒されていたのかもしれない。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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