東証が異例の要請「PBR1倍割れ改善」の"真意" 東証の「キーマン」に聞く企業がやるべき具体策

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東京証券取引所による異例の取り組みの狙いとは(撮影:梅谷秀司)
東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)の低迷する上場企業に対して改善策を開示・実行するよう要請したことが、企業や投資家に波紋を広げている。東証の要請を受けて、株式市場では「低PBR企業の資本効率や収益性が改善する」との思惑が広がり、海外投資家などから割安株への買いが入る場面もあった。
しかし、投資家心理は移ろいやすい。低PBR企業が開示する改善策が期待外れに終われば、かえって株式への売り圧力が強まるリスクもある。企業経営者や担当者からは「具体的にどんな改善策が求められているのかがわからない」との声も聞こえる。世界的にも異例の取り組みに踏み切った東証は、具体的にどんな対策を企業に求め、どんなマーケットの未来を目指すのか。東証の責任者である上場部企画グループ統括課長の池田直隆氏に聞いた。
<この記事のポイント>
・PBRを指標に選んだ理由は、わかりやすさ。PBRだけでなくROEなども重視
・改善策の具体的なイメージは「成長投資」「研究開発」「人的資本への投資」など
・成長戦略を外部に知ってもらう情報開示の工夫も重要
・PBR1倍割れしても市場変更や上場廃止はない。1倍以上の企業も改善策の対象

「企業価値向上⇒投資収益増⇒再投資」の好循環目指す

――3月末にPBRが低迷する上場企業に対して、改善策を開示・実行するよう要請しました。アメリカなどと比べた日本企業の資本効率や収益性、株価の低さは長年問題視されてきましたが、それにメスを入れた画期的な策のように見えます。こうした要請の目的や背景について改めて説明をお願いします。

上場企業の企業価値を高める基盤を作ること、それにより投資家にとっての東京市場の魅力が高まることが最大の目的です。企業価値が向上し、その収益が投資家に分配されて、それが再投資されるという好循環を生み出したいと考えています。昨年4月の市場区分の見直しも含めて、そうした目的で施策を検討しています。

――日本ではPBRが1倍割れしている上場企業も多いとされます。日本を代表する超大企業ですら1倍割れしている企業が少なくありません。

日本の代表的な企業で構成される「東証株価指数(TOPIX)500」でPBR1倍割れしている企業は40%以上(2022年7月時点)に達しています。これに対してアメリカのS&P500種株価指数の採用銘柄では5%にすぎません。これは、企業の収益性または成長性が「市場に評価されていない」ということを示唆しています。背景には、日本の上場企業が投資家の目線を意識していなかったり、それを戦略や情報開示に活用できていなかったりすることがあるとみられます。

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