東証が異例の要請「PBR1倍割れ改善」の"真意" 東証の「キーマン」に聞く企業がやるべき具体策

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今、お話しいただいた企業戦略は、すべて当てはまると考えています。もちろん企業次第ですが、持続的に「資本コスト(投資者の期待リターン)」を意識して収益性を上げていただく検討をしていただきたいということです。その際、自社株買いや株主還元策などについては、もちろん否定するわけではありませんが、一過性の対策にとどまる場合もあるので、それだけを期待しているものではないとお伝えしています。

また、成長戦略は、ただ作って実施すればよいというわけではありません。自社がどんな成長投資を実施するのかを投資家をはじめとした多くの方々に知ってもらうことも重要です。わかりやすい企業戦略の説明や情報開示のためのフォーマットを東証で作ることも検討しましたが、結局、企業自身に自分で表現していただくことこそが重要なのでやめました。各企業が的確でわかりやすい説明を行うことが大事だと考えています。

PBR1倍割れしてもプライム市場から落ちることはない

――「PBRが1倍割れするとプライム市場からスタンダード市場に移る必要がある」または「上場廃止になる」などという見方が一部であるようです。

そうしたことは一切ありません。検討もしていません。今回の措置はあくまで資本コストや株価を意識した改善策を開示・実行してほしいということです。プライム市場の上場基準は別にありますので、その基準に沿って判断することになります。

――資産が大きい企業や安定収益が続く企業や業界ではPBRが低くなりがちだとの見方もあります。ROEが8%に達しているのにPBRが1倍割れしているという企業も多数あります。業界によって、基準の違いが必要であるとの声もあります。

「PBRが1倍超えるような計画を作ってほしい」といっているわけではありません。1倍を超えていればよいというわけではないからです。このため、今回の改善策の要請は、PBR1倍割れ企業だけを対象にしているわけではありません。

今回の措置は、あくまで現時点の分析を踏まえ、改善する対策を開示・実行してほしいということです。経営者がPBR等の向上を目指すことで、資本コストを意識しながら、収益力を高め、企業価値を高められるような環境が作れればと考えています。

PBR(株価純資産倍率)
「Price Book-value Ratio」の略。PBRは、当該企業について市場が評価した値段(時価総額)が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す。株価を1株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できる。PBR1倍割れは株価が本来の企業価値を下回っているとみなせるので、割安とみることができる。
日高 広太郎 広報コンサルタント、ジャーナリスト

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ひだか こうたろう / Kotaro Hidaka

1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。その後、小売店など企業担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年に東証一部上場のBtoB企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。クライアント企業のメディア掲載数を急増させている。

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