不正続く電力、送配電事業の「許可取り消し」を 法政大学の高橋洋教授に聞く「真の再発防止策」

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公正取引委員会による課徴金納付命令
公正取引委員会は大手電力会社の独禁法違反を認定。巨額の課徴金納付を命じた(出所:3月30日付の公正取引委員会発表資料)
電力業界では、カルテルや他社顧客情報の閲覧など、不正行為が相次いで発覚。エネルギー政策に詳しい有識者などから、抜本改革を実施すべきとの声が高まっている。2010年代初めに電力システム改革に関与した高橋洋・法政大学教授に、一連の不正問題の背景と、あるべき改革の方向性について聞いた。


――公正取引委員会(以下、公取委)は3月30日、中部電力および小売り子会社の中部電力ミライズ、中国電力、九州電力および小売り子会社の九電みらいエナジーに対し、独占禁止法第3条(私的独占または不当な取引制限の禁止)に違反するカルテル行為があったとして、排除措置命令および総額1010億円にのぼる課徴金納付命令を出しました。

一方、関西電力は、カルテルを自主申告したことで課徴金減免制度(リーニエンシー)が適用され、排除措置命令および課徴金納付命令を免れました。世の中を揺るがした西日本広域にわたる大口電力販売に関する今回の事件を、どのようにとらえておられますか。

大手電力会社はもともと法律で認められた地域ごとの独占企業だった。それが小売り自由化で競争を義務付けられ、表向きには国の政策に協力してきた。ところが、その陰で密かにカルテルを締結し、競争を回避してきた。大手電力は当初こそ価格競争を仕掛けたが、わずか2年でカルテルに走った。国の自由化方針に背を向けた観点からも悪質だ。

――カルテルの実態については、公取委の3月30日付の報道発表資料に詳しく記述されています。

小売り部門の一部の不心得者による違反行為ではなく、経営トップを含む幅広い役職員が関与するなど、社の経営方針として不正行為をやっていた。

業界団体である電気事業連合会の会合の機会や、同連合会に出向していた者同士が出向した際に構築した業務上の関係を利用して情報交換をしてきたとされている。

自社のエリア外に進出する際に、「仁義切り」と称して他社に営業に関する情報を伝えていたともいう。仁義切りという言葉に驚いたのは、私だけではないだろう。

不正を見抜けなかった経産省・電取委の責任

――ユーザーが被った不利益をどのようにとらえておられますか。

お互いの供給エリアでの顧客獲得競争を制限することで、自社の供給エリアで電気料金の水準を維持または上昇させていたと認定されている。競争がなくなったことで、小売電気事業者の選択肢も狭まった。大手電力がカルテルに手を染めていた頃、大手電力と競合する新電力会社から、大手電力が見積もりを出さなくなったという話をしばしば聞いた。そうした指摘が今回、裏付けられた。

――公取委は、卸電力市場への供給量を絞り込み、市場価格を引き上げることで新電力の競争力を低下させることを企てている者が大手電力にいたとも指摘しています。公取委はカルテルとは別にこのような問題行為について把握した事実を、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会(以下、電取委)に情報提供しました。

こうした不正行為の疑いについては、私がメンバーを務める内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(以下、再エネタスクフォース)が指摘してきた。2021年1月、卸電力市場では説明のつかないスポット価格の高騰が発生し、約1カ月にわたり通常の10倍前後の高値が続き、史上最高額の1キロワット時あたり251円を記録した。

この時、私たち再エネタスクフォースは「大手電力が何らかの意図を持って電力の供給量を絞っているのではないか。相場操縦の疑いがある」との指摘をしたが、電取委は「徹底的に調べたが不正は見当たらなかった」として幕引きを図った。

今回、指摘されたことが2021年1月頃に起きたことかどうかは分からないが、少なくとも私たちが指摘したような不正行為をやっていたことが推測される。その意味では不正を見抜けなかった電取委の調査は甘かったと言わざるをえない。改めて徹底究明を求めたい。

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