子持ちがシリコンバレーで働きにくいワケ ヤフーでは全社員の在宅勤務が禁止に

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IT業界には全米でも特に優秀な人材が集まっており、彼らの多くは会社に対して、普通の労働者よりはるかに交渉力が高いはずだ。シリコンバレーは米国の創意工夫の象徴であり、世界中の優秀な頭脳を引き寄せる場所として、文化に与える影響もケタ外れに大きい。

一方でシリコンバレーでは仕事にすべてを懸けることが求められる。IT業界は一夜にして成功を収めることも可能で、自分たちの仕事が世界を変えると信じている。

「あなたのアイデアに数百万ドルを出す投資家にとって、あなたが全力で取り組むことは最低限の条件だ」と、オンライン不動産仲介業者レッドフィンのグレン・ケルマンCEOは言う。

「だからこそ、家庭では子育てに熱心な親であっても、投資家へのプレゼンで家族に優しい職場について語る起業家はいない」

企業文化に浸透しない

スタートアップに子育てをサポートする制度がないのは、できるだけ早く会社を成長させることに集中しているからでもある。一方で大手IT企業の多くは、少なくとも表向きは子供が生まれた社員が働きやすいように努めているが、企業文化に浸透しているとは限らない。

産休や育休が義務づけられていない米国で、一部の大手IT企業はかなり手厚い制度を設けている。たとえば、フェイスブックは両親に16週間の有給の育休を認め、4000ドルの出産祝い金を支給している。子供を持つ女性が出世する顕著な例も多い。メイヤーは妊娠7カ月でヤフーのCEOに就任。YouTubeのスーザン・ウォジスキーCEOは最近、5人目の子供を出産した。

とはいえ、これらの顕著な例だけで、IT企業が家族に優しいとは断言できない。とくに出産直後は厳しいだろう。エグゼクティブには一般の社員は手の届かない特権があることも事実だ(メイヤーは自分のオフィスの隣に、自費で個人用の託児所を設けた)。社内の食事が無料で、クリーニングの受け渡しができるなど充実した福利厚生には、オフィスを離れがたくなるという面もある。さらに、会社の文化──たとえば、1週間にコードを何行書いたかをもとに報酬が決まる──は、子育て中の社員に協力的ではないと、多くの親が感じている。

「1日20時間働き、あらゆることを犠牲にして仕事を成し遂げるという『ヒーローの文化』がある」と、データーベース・ソフトウェア会社モンゴDBの元CEOマックス・スキルソンは言う。

彼は昨夏、3人の子供と過ごす時間を増やすためにCEOを辞任するとブログで宣言して話題になった。

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