"夜のお菓子"が東京にカフェを作ったワケ 表参道に期間限定のリアル店舗が出現

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まずは原材料。「小麦粉、バター、砂糖など、すべてうなぎパイのために特注して作っていただいているものです」(飯島さん)。

バターについては、今は供給が薄く貴重な国産バターにこだわっている。もともとはバターを得るための牛の種類、そして牛が食べている草の種類にまでこだわりが及んでいた。それは、二代目社長である山崎幸一氏以下、職人たちが極限まで味の追求を続け、到達したものだ。

さらに、うなぎパイの独特な軽い歯ざわりをもたらすパイ層は、職人技によって可能となっている。職人の手作業はうなぎパイの味の根幹にかかわるため、生産工程を来館者に紹介しているうなぎパイファクトリーでも、公開していない「企業秘密」の部分だ。

そもそもパイ生地は、生地の間に冷やしたバターを挟みながら、何重にも折り重ねていくことによって生地の層を作るものだ。普通の手作りパイ生地では10数層だが、うなぎパイの場合はなんと、数千層に及ぶのだそうだ。

「そうした折り込み作業はすべて手技で行いますので、1日に20万本を製造するために、48人の職人が1日8時間、外界と遮断された工場にこもって黙々と作り続けているわけです」(飯島さん)。

うなぎパイのおいしさの裏に職人魂があった

考えただけで気が遠くなりそうな作業だが、うなぎパイ職人たちはみな、非常に高い志を持って取り組んでいるという。たとえば食品では欠かせない、衛生面での配慮ひとつとっても、かなり気を使っているという。

「出勤前に朝シャンをしてくる人が多いですね。そればかりでなく、体毛や頭髪までツルツルに剃ってしまった職人もいます。もちろん、白衣やマスク、キャップなど、異物が食品に混ざらないよう対策がとられていますが、それ以上にうなぎパイへの責任感と誇りを強く持っているということです」(飯島さん)。

職人たちのモチベーションをさらに高めるための「師範制度」も導入されている。入社したばかりの練士から、範士、宗家、師範と4段階にわたって、年に何度か試験を受けながらステップアップしていくもので、技術のみならず人間性も評価の対象となるという。

「当社は来年、130周年を迎えます。さらにその先の50年、100年をにらみ、社として継続していくために職人を含む社員の『人間力』がもっとも重要だと、三代目の山崎泰弘現社長は考えているんですね。そのために、『技術』という伝統を守りながら、ある方面では進化、変革していかなければなりません」(飯島さん)。

その「変革」を示すのが、2014年の新ブランド発足だ。東洋経済オンラインでもレポートした「coneri」や、和菓子の新ブランド「五穀屋」だ。coneriは「うなぎパイ」のイメージを一新するおしゃれなブランド。ディップをつけて食べる新しいタイプのパイだ。

「おかげさまで、順調に推移しています。朝食として食べる『朝パイ』や、さまざまなパイを持ち寄ってシェアする『パイ・パーティ』など、いろいろなシーンで楽しんでいただいています」(飯島さん)。

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