幸之助は、「人は30代に伸びる」と考えた

「30代はいちばん充実した時期だった」

昭和の大経営者である松下幸之助。彼の言葉は時代を超えた普遍性と説得力を持っている。しかし今の20~40代の新世代リーダーにとって、「経営の神様」は遠い存在になっているのではないだろうか。松下幸之助が、23年にわたって側近として仕えた江口克彦氏に口伝したリーダーシップの奥義と、そのストーリーを味わって欲しい。(編集部)

 

昭和45年(1970)、私が30歳になったとき、たまたま、松下幸之助が、「きみ、幾つや」と聞く。

「今年、ちょうど30歳になりました」と答えると、「そうか」と言って、加藤清正の話をしてくれた。

「30代はいちばん充実した時期だった」

「きみ、加藤清正、知っとるやろ。あの清正は、熊本城を造ったのは、30代や」。

確かに、日本の三大名城のひとつと言われている熊本城は、清正が29歳の時、天正19年(1591)に築城に着手し、15年後、慶長11年(1606)に完成している。清正が44歳のとき。まさに30代に、今日まで名城と言われる城をつくり上げたことになる。

「30代でも、そういうことができるということやね。いや、30代は、わしの30代を考えてみても、いちばん充実した、手応えのあるときやったな。事業部制を考えたしね。綱領とか、基本方針とかもつくったな。うん? 34歳のときや。非常に活発に活動してたわ。昭和4年の大きな不況も乗り越えたしね。そう、あのとき、どこの店も従業員の首切りをしたけど、わしは、ひとりも、せんかった。給料も下げんかったな。そういうことで、30代は、振り返って、ようやったと思う。きみもな、30歳になったということなら、これから、きみの勝負が始まるということになる。この10年間をどう過ごすか、大事やで。頑張ってな、日々新たでやったら、ええわ」

と話しながら、励ましてくれた。

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こういう歴史上の人物を、松下は、よく話のなかで、取り上げることが多かった。

立川文庫を丁稚の頃、よく読んでいたようだ。実際、松下は私に「立川文庫はよう読んだな。まあ、講談調で、面白かったわ」と言っていた。

立川文庫は、大正期に大阪の出版社の立川文明堂から青少年向けとして出版されていた。200冊以上が刊行され、『猿飛佐助』とか『霧隠才蔵』などがよく読まれたそうだ。そういう中に、加藤清正など歴史上の英雄などがあったのだろう。

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