原発被災地の「鉄道代替輸送」に足りないもの 帰還困難区域内の列車代行バスに乗ってみた

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私は運転開始初日の1月31日、初便となる原ノ町6時50分発の代行バスに乗って、竜田へ向かった。前夜は相馬市内に宿泊し、常磐線の列車で原ノ町へ。この区間は、すでに列車の運転が再開されている。

「試乗客」が目立った代行バス第1便

代行バスは「浜通り交通」という、楢葉町内に本社がある(現在は閉鎖中で、いわき市内に事務所を設置)貸切バス会社に委託されている。

なお、列車代行バスを運転する場合は、バス停の位置や運行本数などは鉄道会社(この場合はJR東日本)が決め、それに基づいてバス会社に発注される。運行経費は鉄道会社持ち。乗車券は「列車が運転を再開したもの」と見なし、通常どおりの鉄道のものが必要だ。私は相馬駅で京都市内行きの乗車券を購入して乗車した。

代行バスに充当されていたバスは、トイレ付きの観光バスタイプであるが、側面の行先表示器や車内の降車ボタン、座席ナンバーが取り付けられていることから、もともと高速路線バス用だった車両の転用とわかる。JRバス関東からの譲渡車とのことで、一種の現物出資による地元会社への応援と見なせるかもしれない。

常磐線代行バス第1便発車前に挨拶する桜井南相馬市長

原ノ町駅前にはマスコミが集結し、第1便の取材が行われていた。その中で、南相馬市の桜井勝延市長が挨拶し「(形の上ではあるが)常磐線がつながり、住民にとっては大きな希望となる。地域全体の復興へ向けての大きな一歩となる」と述べた。

第1便の乗客は31人。客層はつかみにくいが、試乗客の比率が高そうである。多くの乗客が盛んに写真を撮っていたからだ。乗務しているのは、運転士と添乗員の2名。乗車時に添乗員による乗車券確認が行われた。多客に備えてもう1台、バスが駅近くに待機していたが、1台だけでおさまった。

帰還困難区域内では、国道6号線以外への立ち入りが厳しく制限されている(代行バス車内から撮影)

発車は定刻。国道6号線はそれなりに通行量がある。他府県ナンバーの車が目立つ。代行バスの所要時間はこの便で75分。余裕があるのか、速度は50~60km/hほどで流す。「福島第一原子力発電所」への案内看板が現れると、さすがに緊張感を覚える。

常磐線を基準に言えば、浪江町と双葉町の町境から帰還困難区域に入り、双葉町、大熊町域の全線(途中に双葉駅、大野駅がある)が含まれ、富岡町域の夜ノ森駅付近まで続く。磐城太田~浪江の各駅、および富岡駅は居住制限区域、または避難指示解除準備区域に含まれる。

帰還困難区域では、国道と交差する道は柵で仕切られ通行できない。基本的に立ち入りができない地域なので、生活の気配はまったくない。

次ページ淡々と走るバス。定刻より19分も早く到着
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