バブルを起こせなくなった投機家たち いま金融市場で何が起きているのか(下)

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いまや、新聞紙は要らない。たき火は十分に、勝手に燃え盛っているのである。だから、もはや誰も新聞紙には関心がなく、量的緩和縮小、出口戦略、と言われても、関係ないのである。欧州の量的緩和は、新たな新聞紙であるが、欧州にとっては大きいが、世界の金融市場、米国の金融市場にとっては、マイナスではないが、ほとんど関係ないのである。

日本の新聞紙、「黒田量的緩和」は、世界で唯一湿っぽかった日本市場に火をつけた。だから、効果はあった。今や、日本も新聞紙は要らない。勝手に火は燃えているのである。

しかも、新聞紙よりも遙かに燃えやすい、燃料そのものを日銀自身もGPIFも投入しているのだから、それに寄ってたかって海外からも燃料がぶち込まれているから、日銀の新聞紙、国債買い入れは、国債市場には関係があっても、株式市場には関係ないのである。

現在、金融市場が揺れるのはなぜか。実体経済に無関係に、彼らは儲けたいのである。そして、危機から量的緩和へ、というわかりやすい右上がりの時代は終わった。

トレンドとしては右上がりで、途中に混乱と不安が渦巻く、というのは、投機の側からすると、さらに仕掛ける側からすると最も儲けやすい局面なのである。しかし、今は違う。右上がりの局面は終わった。

燃料から行くと、ただ自分たちがどうするかにかかっている。これまでのように、わかりやすくはない。もう右上がりは続かないと思って降りる人々もいる。これから買い時だ、といってなだれ込んでくる燃料、いや投資家たちもいない。だから、難しいのである。

短期の波しかつくれない投機家たち

難しいから、短期的な波で儲けるしかない。だから、彼らは、短期の波を求め、そのタネになるニュースをみつけ飛びつく。飛びつけば、それを動かしたいから、買った後は、そのニュースを大げさに吹聴する。この世の終わりか、救世主か、どちらかに傾けて騒ぐ。そして、波を作って利益確定しようとする。

しかし、このような遊びにつきあって、損をし、精神的にも振り回されるのには、一般の投資家たちは飽きてきた。うんざりだ。だから、彼らは、短期の波は無視して、長期のトレンドで買おうとする。それならば、実体経済の動きに従おうとする。そうなると、淡々と上げていくぐらいしかない。金融政策は関係ないから無視することになる。

これで困るのは、投機家たちである。彼らは、動いて欲しいし、自分も動きたい。だから、たわいもないニュースで振り回そうとし、自分たちも動くのである。しかし、実体経済に連動して投資しようとする普通の人々はもはや見向きもしない。だから、動きは激しいが一日で終わってしまうか、一日の中ではもとに戻ってしまうのである。

このとき、価格に価値の軸がないことは、とても都合がいいが、バブルでどこまでも右上がりにならない場合は、自分も不安になってくる。

皆がついてこなければ終わりであり、投資家は二分され、実体経済は完全に分離してしまった。金融市場の資本も必要とせず、グーグルもアップルも、それ以外の企業も大きな利益を上げているから、自己資金で十分なのだ。だから、金融資本は自分たちで自作自演、一人で踊るしかない。そして、それは不安だ。だから、短期の波しか作れないし、波しか起きないのである。

ギリシャとEUの関係は、久々の大きな話題であるが、実は、EUにとっては、ギリシャはもはやどうでもいい。ギリシャだけの問題であり、EU全体の、ユーロ全体の不安にはならないし、それを煽る金融市場があっても、実体経済とそれしかみていない投資家たちは、そんなことには振り回されないからだ。

だから、結局、ギリシャ不安でも金融市場は大きくは動かなかったし、「4カ月延長」という一時しのぎとなっても大きくは戻さなかった。今後も、この流れは当面続くだろう。静かな市場と言うよりは、「無視され続ける金融市場」というものが続くのだ。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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