積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化

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財務省は政策努力を行うほど、財政悪化が進む、一種のジレンマに陥っている(写真・今井康一)

7月29日に、岸田文雄内閣は2023年度予算の概算要求基準を閣議了解した。これを皮切りに、来年度予算をめぐる駆け引きが展開されてゆく。今秋にも佳境を迎えることになる予算編成をにらんだ動きは、すでに始まっている。

財政拡張圧力が目白押し

特に、6月7日に閣議決定された「骨太方針2021」には、基礎的財政収支黒字化の達成年度である「2025年度」は明記されなかった一方、予算規模の拡大の予兆となる文言が多数盛り込まれた。

1つには、グリーントランスフォーメーション(GX)への投資である。「骨太方針2021」には、「150兆円超の官民の投資を先導するために十分な規模の政府資金を、将来の財源の裏付けをもった『GX経済移行債(仮称)』により先行して調達し、複数年度にわたり予見可能な形で、速やかに投資支援に回していく」と記されている。

GX経済移行債は、新たな形の国債を想定している。そして、国債増発を先行して、GXを促す政府支出を行い、その借金返済は後に回す、ということを暗に示唆している。一部には、10年間に20兆円の政府支出が想定されているという。年平均にすれば2兆円である。

もう1つは、防衛費である。経済政策に関する言及がもっぱらである「骨太方針」で、防衛費に言及があるのは稀なことだが、「骨太方針2021」には、かなりの紙幅を割いて防衛費の増額の必要性が記されている。

その背景は、東洋経済オンラインの拙稿「日本の防衛費は『対GDP比2%』へ倍増できるのか」でも記しているが、NATO(北大西洋条約機構)諸国は、国防予算を対GDP(国内総生産)比2%以上とする目標を設けており、「骨太方針2021」には、その事実の紹介という形をとりつつ「対GDP比2%」と明記された。あくまで、日本の防衛費を「対GDP比2%」にするとまでは書かれていないが、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と記された。

このように、来年度予算に向けた歳出増圧力は、例年以上に強まっている。安倍晋三元首相が、襲撃事件で世を去った後でも、積極財政派の勢いは衰えていない。

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