「日本でネットはテレビの脅威にならない」

氏家齊一郎・日本テレビ会長に聞く

――テレビの広告収入は2009年度を底に回復傾向です。

うじいえ・せいいちろう 1926年生まれ。51年読売新聞社入社、同社常務を経て82年に日本テレビ副社長。92年社長、2001年会長兼CEO、05年取締役会議長、09年6月より現職。96~03年、民放連会長。

スポット広告は確かに底打ちしたが、長期的に見ると楽観できない。テレビ業界は、ここ7~8年で5000億円近く売り上げを減らした。これはテレビ東京さんを含めた五つのネットワークのうち、一つ分の収入が消えてしまった計算だ。

パイの縮小はテレビ業界に限った話ではない。国の経済成長が止まったことと完全に連動しているわけで、わずか2兆円程度にすぎないテレビ業界のことだけをうんぬんしても仕方がない。

 中国や韓国を見ればわかるように、今や国家、政府が主導して経済を牽引していく国家資本主義のような時代だ。業界内で限られたパイの取り合いをするのではなく、「日本株式会社」として国全体を成長させていくようにしなければ、あらゆる業界がますます苦しくなっていく。

 考えなければいけないのは、テレビ業界がどうなるか、ということではない。日本株式会社の中の、テレビ部門がどうなるかということだ。もしテレビ業界の中だけの話をするのであれば、「弱肉強食」に尽きる。放送外収入の拡大ということで新分野を開拓しようと努力しているが、そう簡単に大きな市場が見つかるわけではなく、生き残りのためには弱者からパイを奪うしかない。

 日本テレビは強者の側にいるから自分のことだけを考えれば、生き残る自信はある。しかし、強者だけが生き残っても、最大多数の最大幸福にはつながらない。

米国と日本ではまったく事情が違う

――インターネット放送の台頭もテレビ業界の脅威になりますか。

それはまったくない。メディアはこれまでもたくさん生まれてきており、確かに今ではネットテレビがいろいろな番組を流せるようにもなった。しかし、いくらたくさんメディアが出てきても、あるいはチャンネルが増えたとしても、それは大したことではない。

なぜかというと、地上波が持っているコンテンツやソフトの制作力は、さまざまなメディアの中でいちばん強いからだ。しかも長期にわたる蓄積がある。だから、新しいメディアが出てきたところで、恐れる必要はない。

――米国ではネットを通じたテレビ番組配信も伸びています。ネットの潜在力は強力なのでは?

放送というものは、国によって大きな違いがある。特に、米国と日本ではまったく事情が違う。米国は、もともと難視聴対策を全部ケーブルテレビで進めた。だから、米国には電波中継塔が3000本しかない。米国では全世帯の80%が地上波以外での視聴だが、こうした人たちがケーブルではなくインターネット経由で番組を見るようになっている。

それに対して日本には中継塔が1万5000本もある。ケーブルに頼らず、電波とアンテナだけで行けるようにしたのが日本で、これはデジタル移行後も何も変えていない。何にも頼らずに、視聴者の元に番組を届けることができるのが日本の地上波放送であり、ネット経由でテレビを見るという視聴方法が伸びる余地はあまりない。

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