ジェイコムが宿敵の動画サービスと手を組む事情 ネットフリックスに続きディズニーとも提携

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こうした動画配信サービスと提携することで、今までは「(動画配信サービスと)竹槍で戦っているようなものだった」(氏本常務)というケーブルテレビに、新しい価値を見出せたことも同社にとっては追い風だ。

「今までは見向きもされなかった30代〜40代の比較的若年層の新規加入が強含みしている」(同)のだ。今までは比較的高年齢層が主体だったケーブルテレビだが、ネットフリックスなどと組むことによって訴求できるターゲットが広がったという。

動画配信側も大きなメリット

動画配信サービス側にもジェイコムと提携する大きなメリットがある。ある動画配信サービス首脳は「こうした提携はどこも喉から手が出るほど欲しい」と話す。最大の魅力は「アナログ営業力」だ。

ディズニープラスはネットフリックスを猛追しており、提携面でも同じ土俵に立った形だ(撮影:梅谷秀司)

ジェイコムは日本全国で65拠点を持ち、2500人もの社員が各住宅に足を運び営業を行う。一方、動画配信サービスはネット回線が必須で、かつ契約もネット上で行われる。いわば、アナログとデジタルという対極の立ち位置に存在する。

ここでジェイコムと提携すれば、全国にいる2500人もの社員にデジタルサービスをアナログで売ってもらえるというわけだ。動画配信サービス側は元手なしで潜在的需要を刈り取ることができる。

衛星放送大手の「スカパー!」の会員数が落ち続ける一方、ジェイコムの総加入世帯数は微増傾向を維持。動画配信サービスを訴求軸に踏ん張りを見せるが、課題となるのは動画配信サービスそのものの勢いが落ちた後だろう。すでにアメリカでは、ネットフリックスの会員数が頭打ち傾向になっており、日本でも早晩そうした事態に陥ることは想像に容易い。

動画需要そのものが落ち着きを見せた後に、次なる需要をいかに取り込めるのか。「アナログ営業」を武器とした異業種とのパートナーシップ拡大が鍵となる。

特集「動画配信サバイバル」の記事はこちら。
■Netflix全盛、「テレビ局の動画配信」の厳しい現実
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井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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