「性教育」を毛嫌いする日本が抱えている大問題 女性の権利に対する意識低下につながっている

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この影響で、「私も何度か教育委員会に呼ばれ、危険な性教育をしないよう言われました。一緒に実践を検討してきた指導主事に言われたときはさすがに驚き、怒りがこみ上げました。でも、指導主事も立場上、苦しかったでしょうね」と、樋上氏は明かす。学校現場が萎縮していった様子が、こうした話からうかがえる。

七生養護学校事件は裁判になり、2013年に最高裁で原告側が全面勝訴している。そのあたりから風向きが変わり始めた、と樋上教諭は感じている。

2015年、文科省主催で行われた性に関する学習の講習会を受講したところ、あおもり女性ヘルスケア研究所所長で産婦人科医の蓮尾豊氏がピルについてパンフレットに書いていたので驚き、「先生は中学生に避妊・中絶について教えることをどう思いますか」と手を挙げて質問したところ、「絶対に必要です」と断言された。そこで、仲間や校長に「文科省が変わった!」と資料を送った。

2018年には、再び古賀都議が性交を教える樋上教諭らの教育を問題視し、都教育委員会が足立区教育委員会に介入するなどしたことが、朝日新聞などで大きく報道された。この事件はしかし、メディアが大きく報じたことで、現状の性教育の不足についての関心を高める結果になった。#Me Too運動が盛り上がり、性の問題に対する関心度が高い時期になっていた。

樋上氏がバックラッシュの時代でも、正面から性に向き合う教育を行ってこられたのは、周囲の理解があり、仲間がいたことが大きい。バッシング前によく授業の見学に来た校長は、「性に対する考え方が変わった。子どもたちにとって、絶対に必要な授業だ」と称賛し、教育委員会にも見学に来てもらうなどしていた。

樋上氏の中学校の性教育プログラムは、授業見学に来た教師たちから称賛はされるが、歯止め規定の影響で実施は広がらない。公務員のままでは声も上げられない、と正規職員の立場を今春、樋上氏は手放した。世の中を変えるために、仲間と作った性教育の本を7月に刊行し、そうした性教育を広げる活動をしようと考えている。

来年度には、性暴力根絶を目的とした文科省のプログラム「生命(いのち)の安全教育」が全国の学校で行われるようになるが、ここでも性交については記されていない。

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