「性教育」を毛嫌いする日本が抱えている大問題 女性の権利に対する意識低下につながっている

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「授業では、いい悪いは一切言いません。中絶するなら、母体保護指定医師がいる病院をちゃんと選ぶこと、初期のほうが体にもお財布にも負担がかからないという話はします」

しかし、日本の教育現場では、中絶の権利以前の問題が山積している。学習指導要領が「妊娠の過程は扱わないものとする」と歯止め規定を設けてきたため、性交によって妊娠することを教えない学校が多いからだ。しかし、樋上氏は長年、性交によって妊娠することをきちんと教えている。段階を追って性は大切なこと、と男女共修の授業で教えているため、生徒たちは恥ずかしがらずに受け止めるという。

樋上氏は、別の中学校の男性教師から「『なんで精子と卵子がくっつくんですか』と聞かれて、『高校生になったら教わります』とごまかしてしまいました」と言われたことがある。しかし、高校でも"歯止め規定"は有効だ。

樋上氏は関東学院大学でも非常勤講師として「性の健康学」を教えており、選択授業だが400人がオンラインで受講している。授業でアンケートを取ると、「性についてちゃんと学んでいない学生が多く、『男はこうあるべき』『女はこうあるべき』という考えが見え隠れすることがある。しかし、多くの学生が関心を持って履修してくれ、授業を受けることで変容することがうかがえる感想がたくさん届くので、うれしい」。

恋愛が自分事として切実な大学生は、束縛しようとする相手にも合わせたいと考えがちだが、「中学生は恋愛経験が少なく、客観的な恋愛観を学ぶことができます。どっぷり恋愛に浸かる前に考えさせるのは、大切なことです」と語る。

授業で高校生カップルを想定した議論

学校で性教育をきちんと教えなければ、妊娠するリスクも、そのリスクを避けるために避妊や中絶があることも教えられない。それゆえ、生活力もなくパートナーシップも十分に育めないまま妊娠すると、人生がゆがんでしまうこと、そして、それを防ぐにはリプロダクティブ・ヘルス&ライツが重要なこと、までたどり着けない。

樋上氏は中学校で高校生のカップルを想定した授業で、セックスで妊娠したらどうするかを議論させ、最初と最後にアンケートを取る。高校生になるとセックスの体験者が増えるので友だちから相談されるかもしれない、と話すと生徒たちは真剣になる。議論でさんざん悩ませた後に、避妊と中絶の方法を伝えると、より深く理解すると言う。

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