日本の対中戦略がこれまで不在だった3つの理由 成長をどう受け止め日米同盟とも整合性を図るか

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日本の中国に対する基本的姿勢を再点検する(写真:freeangle/PIXTA)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

日中間の4つの基本文書

戦後の日中関係は、いくつかの重要な画期が見られた。その中でも最近の重要な画期は、2014年11月の日中首脳会談であった。それは、それまで尖閣諸島をめぐり摩擦と緊張を高めていた日中関係を、緊張緩和と安定化へと向かわせる契機となった。

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2014年11月10日、日本の安倍晋三首相が中国の習近平主席との首脳会談を行い、その結果「日中関係の改善に向けた話合い」と題する文書を発表した。そこでは、第1項目として、「双方は、日中間の4つの基本文書の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」と書かれている。

ここでは「日中間の4つの基本文書」という言葉が用いられている。言うまでもなくそれは、1972年9月29日の「日中共同声明」、1978年8月12日の「日中平和友好条約」、1998年11月26日の「日中共同宣言」、そして2008年5月7日の「日中共同声明」である。これらが現在の日中関係の基礎となっていることは、困難や不透明性が続く中でも、いわば共通の認識になっているといえる。これらの文書の蓄積が、現在の日中関係の基礎となるものである。

ところが、冷戦後の30年間で、日本の対中政策は大きな振幅を見せ、長期的な政策の検討が困難となっていった。はたして日本はどのような日中関係を望ましいものと考えて、どのようなアプローチをしようとしているのか。日本は中国の経済成長を、はたしてどのように受け止めるべきか。そしてそのような日中関係は、日米同盟とどのような整合性を持つのであろうか。

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