池上彰が解説、ジャーナリストが「戦場に行く」訳 日本と海外では彼らへの「向き合い方」が違う

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ジャーナリストが殺害されると日本では「自己責任」と言われるが、海外では反応が異なる(写真:South_agency/Getty Images Plus)

メディアが多様化し、フェィクニュースなどがはびこる現代。情報とどう付き合っていくのが適切なのでしょうか。ジャーナリストとして活躍してきた池上彰さんは、「世界を正しく見る方法」を身につけ、メディアリテラシーを高めることが大切だと訴えます。

愛知学院大学での人気講義「ジャーナリズム論」を書籍化した3月発売の書籍『何のために伝えるのか? 情報の正しい伝え方・受け取り方』から、抜粋・再構成して紹介します。(前回の記事はこちら

戦争ジャーナリストと戦場ジャーナリスト

今日は、戦場ジャーナリズムについて話します。「戦争」ジャーナリズムという言い方もあるんですが、微妙に違うんですね。

「戦争ジャーナリスト」というのは、まさに戦争や紛争の最中に、真っただ中にそこへ入っていって戦争をしている人たちの様子を取材する。「戦場ジャーナリスト」というと、もう少し広くなるんですね。つまり本当に戦争をしている真っ最中に行くという人もいれば、戦争が終わったがれきの中、あるいは死体が散乱しているところへ行って、戦争の悲惨さを伝える。

戦場カメラマンとして渡部陽一さんがよく、カメラベストを着てテレビに出ていたでしょう。彼は自分のことを「戦争カメラマンではない」と言っていました。つまり、戦争をしているところへ行くのではない。戦争が終わったあと現地へ行って、戦争の悲惨さを伝えるために写真を撮る、それが私の仕事だと。

私もフリーランスになったあと、さまざまな紛争地帯を取材しています。

2009年にはグルジアへ取材に行きました。いまは「ジョージア」という呼び方になっています。グルジアというのはかつてのソ連を構成していた15の共和国の1つだったわけですね。

グルジアというのはロシア語読みです。だけどソ連の崩壊に伴い、グルジアは独立国になり、ロシアと急激に関係が悪化するんです。ロシアのことが嫌いなグルジアとしては、ロシア語読みではなく、英語読みで「ジョージア」と呼んでくれと要求したために、日本としてもジョージアと呼ぶように法律を変えたんです。外国の国の呼び方、その国を何と呼ぶかって実は全部、法律で決まっているからです。

一方、「ローマ教皇」も以前は「ローマ法王」と呼んでいたのに、呼び方が変わったでしょう。2019年、ローマ教皇が日本に来るときに、ローマ法王という呼び方は止めてくれ、ローマ教皇に変えてくれと向こうから要望があって変えたのです。たとえば、外務省のウェブサイトを見ると、2013年の「わかる‼ 国際情勢」では、「法王」を使っています。それを変えたのですね。

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