社長はボスでもリーダーでもなく、「大名」 高島宏平 オイシックス代表取締役社長の好き嫌い(下)

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高島:「kit Oisix」(きっとおいしっくす)でしょうか。カットやスチームした食材と、それを使って20分でできる主菜・副菜のレシピを一緒に届けるサービスです。料理の時短ができるのはもちろんですが、時短はしたいけど、それが料理の手抜きになっていると思われたくない女性に好評です。時短をして作った料理を家族に出すことに、後ろめたさを感じている女性って多いようなんですね。そうした方々に、「誇らしい時短」を提供し、同時に、心の健康も担っているようです。

楠木:いわゆるネット企業の場合、技術を駆使したビジネスモデルを前面に押し立てて、インターネットのインパクトを世に問う、といったスタンスが多い。これに対して、オイシックスでは、インターネットは単なるツールのひとつで、ネットネットした会社という印象があまりないですね。

高島:大学院時代に起業した会社とか、最初は、やはりネットの持つテクノロジーに引っ張られていた部分が大きいです。しかし、オイシックスをやり始める前あたりからは、テクノロジーよりも、どうやって生活を変えていけるのかに興味が移りました。そして、事業を始めてみると、小売業にとっては、インターネットの最新技術は必要ではなくて、モノを売るツールにすぎないという意識に変わっていきました。テクノロジーの部分が新しすぎると、インパクトが弱まるという考え方になりましたね。

楠木:それは、日本で成功しているネット企業に共通の特徴だと思います。米国の成功パターンで多いのは、水平方向にネットの巨大なインフラを構築するタイプ。グーグルやツイッター、フェイスブックなどがそうですね。一方、日本で成功しているネット会社というのは、垂直方向でサービスや商品を深堀りしているところ。たとえば、以前に「好き嫌い対談」にも出ていただいた前澤友作さんが始めたスタートトゥディがそうです。洋服の小売り分野で、洋服に独自の価値を付けている。ネットはあくまでも商品を売る手段で、「カッコイイ服」という商品そのものへの思い入れが事業構想を規定している。

夢中になれるのは、チームを率いる「大名」でいるとき

楠木:生鮮野菜に接するようになって、野菜への関心は高まりましたか。

高島:おいしいものを食べさせてもらっているおかげで、関心は高くなりました。ただ、商品の選定などは、ほかに担当者がいてやっているので、僕自身が野菜を実際に選んで、というのはありません。

楠木:となると、高島さんにとって日々の仕事の醍醐味というと、どのあたりですか。

高島:やはり、チームを作って、監督の立場でマネジメントをする部分ですね。こういう世の中にしたいというビジョンをチームで共有して、そのたくらみを一緒に実現していく。最初の「大名」の話に戻っていますね(笑)。

楠木:チームワークが好きというよりも、チームを作って動かす部分が好きという。それを、漢字2文字で端的に表すと「大名」(笑)。

高島:会議などで議論が起きたときでも、「ああ、こういうことが組織では起きるんだ」とか、「こういう発言をすると収まるんだ」という発見があって、面白いですね。議論している当人には、面白くないでしょうけど(笑)。

楠木:よく、「俺が一声かければ300人くらいはすぐに集まるよ」といった感じで、自分のデカさを誇示するタイプの経営者もいますけど、そういうタイプではない。

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