崖っぷちOL、30歳で「財務諸表バージン」卒業 会社のおカネを知ることで、仕事も生活も激変した

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はたして、昇級額は1000円ちょっとだった。昨年が2000円ちょっとだったので、この2年の評価は入社時+3000円か……。最終的にどこまで上がれるかはまったくわからなかったが、マックスマーラのコートが買えるようになるまであと100年は必要だな、ということだけはわかった。

うれしそうな顔をしている同僚もいなかった。みんなこんなものか……。ふと周りを見渡すと、よれよれのスーツに袖を通したおじさまたち。おじさま上司たちもそんなものなのか? あるいはポーカーフェースで喜びを隠している人だらけなのか?

はてさて、1年で給料が倍になった人というのは、いったいどんな顔をしているのだろう? ちゃんと目が2つに鼻がひとつあるのだろうか? 今もこの会社にいるのだろうか?

……あまりにも落ち込んだので、人事担当者に、どういう基準でどう評価されているのかを聞きに行った。「基準なんて俺も知らん」、別のおじさま上司は「俺だって低いんだ」と自虐的に笑っている。こ、これが……ファイナルアンサー?

東京のキャリアウーマン像と自分との隔たりに、またしても愕然とする。これでは、万が一、福山雅治からデートに誘われても、着ていく服も買えぬではないか。婚期はさらに遠ざかるであろう。そもそも勝ち組キャリアウーマンと負け組OLとじゃ呼称も異なるのである。私は後者、上がったお給料で、せいぜいユニクロのシャツが1枚余分に買えるだけであった。

そんなわけで、私の初期サラリーマン時代の思い出は、金銭面の不満と不安で支配されている。そのおカネを経営陣がどのように工面していたのかなど、考えも及ばなかった。

嗚呼、悲しきサラリーマン。これ以上不幸な人種がいようか、とすら思っていた。

財務諸表★ジ・アンタッチャブル

かつての勤務先は、データの外部漏洩に対して、極端なほどに過敏な会社だった。外部漏洩をおそれるあまり、座席表の作成すら禁止されていた。電話を取り次ぐのは新人の仕事だが、電話のたびに200人以上いる中から担当者の席を自力で探し出すのは、なかなか骨の折れる仕事であった。しかも、まるで毎月の恒例行事であるかのように、席替えも頻繁に実行されるもんだから、せっかく覚えた座席情報もすぐに陳腐化してしまい、脳内複雑骨折の繰り返しである。

そんな環境だから、財務諸表なんてものに一平社員の私がアクセスできるはずもない。そもそも財務諸表なんて見方がわからないし、見なくても業務は回るのである。私だけではない。多くの社員がそうだった。

そんなアンタッチャブルな財務諸表という存在に、初めて触れることになったのは、その次に転職した会社で、である。上場企業だからすぐにデータが入手できたし、株主説明会の資料を作成するときなどに嫌でも目にする。齢30にして初めて目にしたそれは、単なる文字と数字の羅列で、何がどう重要なのかもさっぱりわからなかった。

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