(第43回)未病薬を健康生活に活かす(その1)

山崎光夫

 電車内で、突然、中年男性が咳込み、喘息(ぜんそく)風の咳がしばらく止まなかった。
まわりに乗客がいる中での咳込みだったので、わたしは中年男性に同情すると同時に、
 「ああ、この人は呼吸器系の人だな」
 と思ったものだ。

 わたしの長年の医学取材から、身体上、完全無欠の人はなく、それぞれどこかに身体的弱味を持っているものだという結論を引き出した。
 ごく大雑把にいって、「呼吸器系」「消化器系」「循環器系」に分けられるように思える。

 呼吸器系に弱味を持つ人は、疲労がたまったり、体調を崩したときに、風邪をひきやすく、気管支を冒され、咳も長引きやすい傾向にある。
 消化器系の人は、胃腸に症状が出やすく、食欲不振、胸やけ、下痢、便秘などの症状を訴えやすい。
 循環器系の人は、頭痛、のぼせ、動悸(どうき)、息切れ、不整脈など、血管にまつわる関係に出やすい。

 この中で、わたし自身は消化器系である。
子どものころから何かというと、腹痛、吐き気、食欲不振を訴えていた。ところが、ここ10年ほど、消化器にまつわる不調から無縁になった。
 これは江戸の儒医・貝原益軒を研究するうちに、病弱だった益軒が愛用して、みずからの養生薬としていた薬を知って、わたしも真似して飲み始めたからである。

 ところで、現行の健康保険では、原則として治療中心で、予防行為は保険の対象外になっている。
 その典型が、人間ドッグで、費用は患者負担のシステムである。

 しかし、診療で予防行為が皆無かというと、そうでもない。
 たとえば、高血圧で降圧剤を服用していた患者の血圧が下がって適正血圧になった場合、服用量を減らしたり、弱い薬に切り換えたりして、様子を見る。リバウンドして再び高血圧に陥らないように管理するのだが、この「様子を見る」という期間は、ある意味で、治療というより、将来を見越した予防医療とも解釈できる。
 こうした行為は、肥満や不眠、腰痛、頭痛など、ありふれた病気でも普通に行なわれている。

 治療とみるか予防とみるかは、医者の判断と方針で決まる。また、患者のほうも、自分の症状に応じて、薬の服用量を加減したり、通院したりする。医者も患者もともに、あうんの呼吸で裁量して病気に対応している。

 しかし、考えてみれば、本格的な病気になって治療するよりは、それ以前の段階で予防できれば、本人も病気に苦しまずに済むし、国の医療費も軽減される。一石二鳥である。

 病弱だった益軒が愛用したのは、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方薬である。わたしはこの薬のエキス剤を、消化器病を未然に防ぐ未病薬として飲んでいる。エキス剤という、日本人が開発した剤型に助けられている。

 次回から、ごくありふれた、しかし、罹るとやっかいで治療も長引く病気について、その未病薬の一端を紹介したいと思う。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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