「実効性ある避難計画を再稼働の要件とせよ」 川内原発審査の問題③広瀬弘忠・東京女子大名誉教授

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広瀬弘忠(ひろせ・ひろただ)●1942年生まれ。 東京大学文学部心理学科卒。東京大学大学院博士課程中退。東京大学新聞研究所助手。東京女子大学文理学部助教授を経て同大学教授。同大学を停年で2011 年3月末退職(東京女子大学名誉教授)。専門は災害・リスク心理学。文学博士(東京大学)。現在は安全・安心研究センター代表取締役。
 川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働問題に関連して、重要性が指摘されるのが、地元自治体が策定する地域防災計画の一環としての避難計画だ。福島第一原発事故を受けて、避難計画策定が必要な地域が、原発から30キロメートル圏に拡大され、川内原発では、鹿児島県および薩摩川内市など9市町が策定している。
 避難計画は事故時の住民の被曝を防ぐ「最後の砦」ともいわれるが、日本では米国と違い、原子力規制委員会による規制の対象とはなっていない。それだけに実効性が本当に担保されるかが問われている。第3回は、原子力を含む災害危機管理に詳しい、広瀬弘忠・東京女子大学名誉教授(災害・リスク心理学)に、現状の避難計画の問題点などについて聞いた。

――川内原発の審査における問題点をどう考えていますか。

 一番の問題は、規制委の審査は深層防護、多重防護によって事故を最低限に抑えられるという想定があるわけだが、それが固定化することで、再び「安全神話」につながっていきかねないということだ。福島第一原発事故が想定外だったとされたように、100%安全だとか、0%の危険性だとか、考えることにはそもそも無理がある。

事故の可能性がゼロではないはずなのに、事故はありえないことを前提にしているからこそ、原子力防災・避難計画の策定が地元自治体に丸投げされている。

立地自治体はもともと、税収増や雇用増などの経済的メリットがある原発を誘致したいのだから、チェック機能は働きにくい。それなのに、自治体へ避難計画が丸投げされ、結果的に実効性の乏しい避難計画になっている。福島の教訓がまったく生かされていない。

米国では避難計画次第で廃炉も

原子力災害の大きさを考えれば、原発の再稼働を判断する要件として、実効性のある避難計画の策定は当然入れるべきだ。米国の原子力規制当局は避難計画を非常に重要視しており、避難計画次第で原発が廃炉に追い込まれる。ニューヨーク州のショーラム原発のように、州知事が避難計画を不十分として承認せず、一度も稼働せずに廃炉となったケースもある。

――自治体に責任が丸投げだと、実効性のある避難計画策定は難しいと。

 川内原発の地元に限らず、日本の場合、各自治体が住民にどうやって放射性物質拡散状況などの情報を提供し、避難指示を行い、避難を支援するかといった計画は、まったくお寒い状態といえる。原発から30キロメートル圏外に避難するときに行う除染でも、実戦的な訓練ができていない。

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