「実効性ある避難計画を再稼働の要件とせよ」 川内原発審査の問題③広瀬弘忠・東京女子大名誉教授

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PAZ(原発から半径5キロメートル圏内の予防的防護措置準備区域)の住民が先に避難し、その後にUPZ(5~30キロメートル圏内の緊急時防護措置準備区域)の住民が避難するという、二段階の避難をどこも想定している。が、緊急時には、PAZの住民もUPZの住民も、みんな一斉に避難するかもしれない。なぜ二段階で避難するといった非現実的な計画を立てるかというと、それがいちばん時間の節約になるからだ。都合のいいように恣意的に作られている。

放射性物質のように、人間の五感で知覚できないものの恐怖に対し、住民はみな遠く遠くへ逃げようと考える。40キロメートル圏、50キロメートル圏の人たちも、避難することがありうる。それをコントロールする主体もない。

 その中でも、川内原発の避難計画は、避難時間シミュレーション(鹿児島県が2014年5月29日に発表)が13通りしかないように、ほかと比べて見劣りする。たとえば、混雑などで国道267号が通行できない場合という想定があるが、南九州自動車道も同時に通行できない場合はどうするかといった、複合的な最悪事態を想定していない。

勝手に避難する人をどうするか

また、「指示に基づかない避難」、要するに勝手に避難するUPZの人の割合を40%としてほとんどのケースを想定しているが、とうてい40%にとどまるとは思えず、非常に恣意的。本来はいちばんひどい状況を想定すべきものだ。誰からも避難指示が出ない、交通規制も行われない、ガソリン切れで車がストップして道路がふさがれた場合など、想定すべき最悪の事態は多い。現状は、シミュレーションといいながら、その内容は実にお粗末だ。1変数だけとって、あとは楽観的に考えている。

――鹿児島県のシミュレーションでは、PAZの避難が90%完了した時点で、UPZの避難指示が出されることを前提に、避難時間は最長で28時間45分、最短で9時間15分としています。

そんな都合のいい方法で避難指示が出せるものか。UPZの人たちはじっと家の中で待機しているという、幻想的な想定がされること自体がおかしい。

避難というのはそんな簡単にいくものではなくて、さまざまな個別の事情に左右される。鹿児島県のシミュレーションでは、避難指示直後から最大2時間以内に避難を開始すると想定されているが、PAZのほとんどの人が2時間以内に避難を開始するとは考えにくい。避難は家族単位でまとまって行うのが普通なので、子どもを保育園から連れて帰るなど、いろいろな家族の都合で時間がかかるだろう。

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