プラスの積み重ねで育てられた
湯浅:乙武さんの書かれた『自分を愛する力』(講談社現代新書)を読んだのですが、私と乙武さんの家庭には似たところがあるのです。私の兄は障害者なんですよ。乙武さんのお父さんも転勤拒否していたそうですが、うちのオヤジもです。オヤジは日経新聞の社員でしたが、転勤しなかったため同期でいちばん出世が遅れた。そんな父親をお互いがんで亡くしたという点も同じですね。
乙武:そんな共通点があったのですね。
湯浅:でも違うところもありました。乙武さんは自己肯定感が高いけれど、うちの兄貴はとても低かった。とにかく人見知り。特に小さい頃は、家に人が来るとコタツの中に隠れてしまう。私が車イスを押して外出しても、人のいない道、いない道を行きたがる。
乙武:確かに、それは相違点かもしれませんが、むしろ障害者としてはお兄様のほうが一般的なのかもしれません。
湯浅:私ね、小さい頃は自分が損しているとずっと思ってたんですよ。兄貴とケンカすると、たいがい私が怒られる。
乙武:ああ、なるほど。
湯浅:オヤジもおふくろも、どちらかというと兄貴のほうにフォーカスしてるから、私は自己主張しても損するだけ、みたいな感じがありましたね。でも私はそれでも、気がついたら「なんとかなるさ」という性格になって、この年齢まで来てしまったんですけど(笑)。
乙武:私には決定的に恵まれているところが2つあったんです。ひとつは生まれた瞬間からこういう体だったもので、親はもう一生寝たきりだろうと覚悟していたという点。だから僕が寝返りを打った、起き上がった、自分でごはんを食べた、字を書いた、それだけで大喜びですから、プラス、プラスの積み重ねで育ててもらえた。
湯浅:はい。
乙武:親って、生まれるまでは「五体満足であってさえくれれば」なんて言うくせに、そのうち「この子は運動ができない」「勉強ができない」とか、いろんなイチャモンをつけてくる(笑)。でも僕はもともとゼロベースなので、些細な成長でさえすごく喜んでもらえた。
湯浅:わかります。
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