日本の「子ども連れ去り」に海外が注目する理由 「共同親権」をめぐる日本と海外の大きな溝

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また、日本の制度と比較した場合大きく違うのは、子どもとの面会を求めることができる人の範囲が驚くほど広いということだ。フランス民法典第371条第4項は次のように説明している。

「家庭裁判所は、子どもの利益のために、親かどうかにかかわらず、特に、その第三者が基本的に安定して子どもおよび親の一方と一緒に住んでおり、子どもの成長、養育費、安定的な生活を提供し、子どもと永続的な感情の結びつきを築いている場合には、子どもと第三者の関係性に関する条件を決定しなければならない」

これが実際に意味することは、祖父母や義理の親、さらには乳母であっても、長い間子どもたちと一緒にいた人なら、両親の離婚後も面会を求めることができるということだ。当然、子どもたちが望んでいる場合だが。

DV被害者を守る制度

共同親権問題を語るときに重要となってくるのが、ドメスティック・バイオレンス(DV)である。カップルのどちらかが伴侶から暴力を受けていて、妻あるいは夫が子どもを連れて去る、というケースも考えられるからだ。この場合、逃げた側が自身と子どもの安全のため身を隠していることもあるだろう。

フランスでもDVは大きな問題だ。フランスでは女性がDVから逃れたいと思ったときの仕組みはこうだ。

「DVの疑いがある場合、裁判所はヒアリングが設定された日から最大6日以内に、被害者に対する緊急保護命令を出すことができる。請求してから数日でヒアリングの日程が決まる。一般的に、例えば女性が木曜日に申請した場合、翌週の火曜日に裁判所でヒアリングが行われ、翌週に決定が下される」(ケダール=ボーフール弁護士)。命令では、加害者を家から退去させることもできる。期間は6月だが、延長も可能である。

これに対し、日本では、DV被害者は逃げるのが基本だ。退去命令を求めることも可能だが、その期間は2カ月であり、その間にDV被害者は自分が住んでいる家から逃げ出さなければならない。このように効果的なDV対策制度がないため、被害者の親は子どもと一緒に逃げて自己防衛しようとするほかない、と子を連れ去る親への偏重を是とする日本の弁護士や非政府組織は説明する。

もっとも、フランスでは、こうしたDVが問題になる場合でも、両親のうち一方が子どもとまったく会えなくなることは通常ない。ケダール=ボーフール弁護士によれば、「子どもを連れ去られた親が暴力的であることが判明した場合でも、心理学者が同席し、判事の監督の下、『面会センター』で子どもと会うことができる。後に、父親が暴力的でなくなったと判事が判断すれば、元夫は段階的に子どもたちと会うことができるようになる」。

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