ビットコイン暴落は「バブル崩壊の予兆」なのか 世界の市場にとっての影響はどれくらい?

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実際に、5月からの暗号資産の価格下落には、中国当局による規制強化が報じられたことなどが、1つのきっかけになった。また、FRBの金融緩和政策の見直し等の議論は、すでに株式や債券市場において2021年春先から大きなテーマになっていたが、それが暗号資産の下落要因になったとは思われない。

結局、ビットコインの価格急落によって痛手を受けた投機家のリスク許容度の低下は、短期的には株式市場を下落させる要因にはなりうるだろう。だが、株式市場の趨勢に影響を及ぼす可能性は低いだろう。FRBによるテーパリング(資産買い入れ額の縮小)の議論は株式市場にとって重要だろうが、それがどのように進むのかがより本質的な問題である。

暗号資産は伝統的マネーにとって代わることはない

ところで、ビットコインなどのここ1年の投機的な暗号資産の価格上昇の背景には、暗号資産誕生をもたらしたブロックチェーンなどの技術革新によって、金融仲介機能や金融システムが将来大きく変わることに対する、市場参加者のとても大きな期待があると筆者は考えている。

ブロックチェーン技術に対する筆者の理解はかなり表面的なものでしかないが、取引記録や仲介機能の仕組みを、今後抜本的に変えるのではないか。

こうしたなかで、各国の中央銀行も、中銀デジタル通貨への研究に取り組んでおり、中国ではすでにデジタル人民元の実験が一部で行われている。

それでは、将来、当局の権威に起因する現行の不換紙幣そして銀行の信用仲介機能が、暗号資産に代替される動きは今後始まるのだろうか。

筆者は、国家権力の1つである通貨発行権限を揺るがすかもしれない暗号資産の存在を、当局は簡単には許容しないだろうと予想している。また、銀行仲介機能の喪失など、中銀デジタル通貨導入によっておこる経済的な影響は極めて大きい。このため、暗号資産が現行の伝統的マネーに完全に置き換わる可能性は低い、と現時点で考えている。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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