ビールが飲める本屋「B&B」大盛況の秘密 アマゾンには絶対まねできない体験を提供する

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業界を変えたい思いが、ブランドを作る

もうひとつ、この「B&B」の特徴は、そのビジネスモデルを公開している点にあります。これは、内沼さんが2013年に出版された『本の逆襲』を読んでも明らかで、「B&B」の収益モデルや業界構造の前提などがほとんどオープンに語られています。

一般的にベンチャーは、まねされて自社の付加価値が低下するのを避けるため、ビジネスの収益モデルなどについてはあまり語るものではありません。しかし、内沼さんの問題意識が、「B&B」一店舗でとどまらず、業界全体や本の未来に対して及んでいるがゆえに、すべてを公開しているのです。

「私たちくらいの規模の新刊書店は、どんどんなくなってきています。けれども、私たちは町の小さな書店が全国各地にあることが、本の豊かな未来にとって必要だと考えています。だから、うまくいったことはどんどんまねしてほしい。本と組み合わせて相乗効果のあるビジネスによって本屋が収益を上げる。おこがましいかもしれませんが、そのモデルを示したいと思いました。もちろん、立ち上げた当初はそんな余裕はありませんでしたが……」

この内沼さんの姿勢こそ、「B&B」にたくさんのファンがいるいちばんの要素ではないでしょうか。本が好きな人たちは、多かれ少なかれ、書店業界の未来を危惧しています。そこに、自店の収益だけでなく、業界全体の発展を考えて発信し、ビジネスモデルを公開している書店が現れたのです。

以前は、ブランドは情報を非公開にして、クールさを背景に作られるものでしたが、今は情報を公開し、対話することで作られるものへと変化してきています。その点、「B&B」は多くのイベントを通して、ブランド力が上がっていると言えます。

「イベントに参加したり、定員さんと少し話したりすると生まれる、『場にいる時間』と『コミュニケーションの総量』が大切です。これはアマゾンなどにはできない体験価値であり、リアルなお店でわざわざ物を買う価値になります」

ブランドを作る際に、「ストーリー」の要素が当たり前のように語られるようになりましたが、その手法が広がるにつれて、ストーリーが本物かどうかを問われるようになってきています。

そこで次に重要になってくるのは、内沼さんが挙げる現実体験での「場にいる時間」と「コミュニケーションの総量」でしょう。

「B&B」のすばらしいビジネスモデルは、書店業界にだけ通ずるものではなく、「モノがあふれた時代のモノの売り方」にも応用できるものだと私は考えます。

【お知らせ】
マザーハウスでは本連載のテーマである「モノにあふれた時代のモノ買い方、売り方」に合わせて、マザーハウスカレッジという、みなさんで議論する場を設けています。詳しくはこちらをご参照ください。
山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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