アマゾンや電子書籍が盛隆する時代だからこそ
本を売るとは地道な作業なのだなあ、ということを、今回、著書を出版して知った。
1日に200冊もの新刊書が出る、出版洪水の時代である。ビートたけしや新庄剛志くらいの有名人の本なら、出すだけで注目されるだろう(そうです僕は阪神ファンです)。だが、そうでない大多数の本の場合は、少しでも注目してもらうために、まず出版社の営業担当が、そして編集者や著者自身も、1軒1軒書店を訪ね、書店員にあいさつして回るのである。
しかし、アマゾンや電子書籍が盛隆する時代に、なぜ書店員なのか。
書店員とは、ただ本を仕入れて売るだけの仕事ではない。たとえるならばソムリエのようなものだ。
洒落たフランス料理の店にでも入ってワインリストを開くと、何百種類ものワインがあって、どれを頼んだらいいのかわかったものではない。若い頃、デートでカッコつけるために付け焼き刃で予習していった経験のある男性諸氏も多かろう。
だが、少し年をとり、肩の力が抜けてくる年齢になると、素直にソムリエに聞くことを覚える。すると、彼らは料理や好み、その日の気分に合ったワインを薦めてくれる。
本も同じだ。星の数ほどもある本の中から自分に合った1冊を選ぶのは難しい。はやっている本や有名人の本が、必ずしも自分にとって面白いともかぎらない。
そんなとき、書店員を呼び止めて、何を知りたいか、自分が好きなジャンルで面白い新刊はないかと聞いてみる。すると、あなたの好みや、必要とするものに合った本を薦めてくれるのである。
だからこそ、著者や出版社の立場からすれば、地道に書店を回って、出版した本を書店員の人たちに知ってもらい、彼らの「ワインリスト」に加えてもらうことが大事なのである。
書店員の世界にも「カリスマ」がいる。ただランキング上位の品を薦めるだけならば誰にでもできる。「カリスマ書店員」と呼ばれる人たちは、日の目を浴びていない良書を見抜き、それを必要とする人に届ける力を持っている。流行に乗るのではなく、流行を生み出す力を持っている。
僕は有名人なんかでは決してないし、自著を名著だとうそぶくつもりもない。ローラの写真集にランキングで勝てるわけがないし、そもそも万人受けすることを 狙って書いた本でもない。
それでも僕の本にとって幸運だったのは、何人かの「カリスマ書店員」たちに、目をかけてもらえたことだった。
そのひとりが、この記事で紹介する、大阪にある隆祥館(りゅうしょうかん)書店の、二村知子さんである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら